全国高校サッカー選手権大会が第100回を迎えたのを記念して、日本テレビの藤井貴彦アナウンサーら実況経験のあるアナウンサーたちがその舞台裏を明かす書籍『第100回全国高校サッカー選手権記念 伝えたい、この想い アナウンサーたちのロッカールーム』が出版された。
高校サッカーへ熱い思いを持つ藤井アナは、平日夕方のニュース番組『news every.』(毎週月~金曜15:50~ ※一部地域除く)のメインキャスターという多忙の合間を縫って、執筆に加え編集も担当。さらに、執筆に関わったアナウンサーのいる各局に足を運び、全国を飛び回って本をアピールしている。
そんな中、FBS福岡放送にやってきた藤井アナを直撃。メイン執筆を手がけた同局の福岡竜馬アナとともに、この本に懸ける思い、局の垣根を越えた取り組み、チームの一員のような地元局アナウンサーの存在など、あふれる思いを語ってくれた――。
■「全部が宝物みたいなエピソード」
高校サッカーの実況アナウンサーは、ある程度の年次になると退いて若手に道を譲ることになる。しかし、その思い入れは熱く、「気持ちが残ったままになるので、事あるごとに実況を卒業したアナウンサーが集まって、『あの時のあの試合はこうだったよね』と振り返るんです。そのときに、昔の実況の話をよくするんですが、しゃべってるだけでは消えていってしまうので、何か残せたらいいなと思っていたんです」(藤井アナ)ということで、第100回大会の記念として本を出版することを企画した。
そこで、系列局をはじめとする各地域の地元局のアナウンサーに執筆を依頼することに。藤井アナは自ら執筆するとともに、編集も手がけ、「みんなが持っている裏話、頭の中に残っている実況をかき集めました。私にとって、全部が宝物みたいなエピソードでした」と目を輝かせる。
その書き手のメインとして参加したのが、福岡アナと札幌テレビの岡崎和久アナ。最初は、藤井アナと3人でオンラインのミーティングを重ねていたが、「この3人の記憶だけじゃ足りないかもしれないということで、各地方の超ベテランアナウンサーたちも集めて会議をしたんです」(福岡アナ)と、ネタ出しの規模を拡大。
すると、「やっぱり我々の知らなかったストーリーが結構出てきて、『そんなミラクルをあなたは隠していたんですか!』と驚いたり(笑)。地方局のアナウンサーは、地元校のチームと家族になったような形になって取材するのですが、平田雅輝アナ(三重テレビ)の“奇跡のリポート”というエピソードは、その熱い思いが起こしているんだなあと感じましたね。他にも、サッカーの神様が見てくれているんだなというエピソードもこの本に書けて、良かったなと思います」(福岡アナ)と、世代の違うアナウンサーたちを巻き込むことで、エピソードが重層化された。
今回の本は、「泣ける」「笑える」「100回大会を盛り上げる」の3つを柱に掲げた。その狙い通り、FBSアナウンス部長の浜崎正樹アナは、冒頭の「はじめに」でもう泣いてしまったそう。一方で、「監督と一緒にお酒を飲みに行って取材したのに、記憶が全くないといか、そういった珍プレーも多くて(笑)」(福岡アナ)と、思わず笑ってしまうエピソードも収録されている。
藤井アナは「真面目に、必死にやっているからこそ面白いんですよね(笑)。(珍プレーエピソードは)ちょうど真ん中のページにあるので、いい存在感になっています」と紹介。ここも執筆を担当した福岡アナは「12ページくらいあるんですけど、3時間くらいで書けちゃいました(笑)」と、筆が走ったそうだ。
■テレビ局ならではの映像とのコラボ「ポン!と出てきた」
執筆作業を進める中では、人によって記憶が異なることが判明するケースも。あるアナウンサーがゴールを決めた選手の名前が瞬時に出てこず、「お前は一体、誰なんだー!!」と実況してしまう珍事があった。
福岡アナがそのエピソードについて記憶を頼りに執筆し、実際に実況したアナウンサー本人に確認してもらうと、「話が全然違っていたんです。そこで、ライブラリーから映像を見せてもらったら、僕が最初に書いた原稿より何百倍も面白い内容で、原稿を書き直しました」(福岡アナ)と言うように、放送を重ねてきたテレビ局ならではの情報の裏付けも強みだ。
映像の活用は、今回の本の大きなポイントになっている。記載されたQRコードから、本に書いてある内容と連動した試合の動画を見ることができる仕掛けがあるのだ。福岡アナは「これで子供からサッカーファンからお年寄りの方まで楽しんでもらえるし、何より自分たちの一番の強みである映像とコラボレーションできるのはいいなと思いました」と、ひざを打ったそう。
これを発案した藤井アナは「リモート会議を、“あーでもない、こーでもない”と言いながらやっている中で、ポン!と出てきたんですよ。これって、実況において使おうとするワードが思いつくのと同じで、選手やチームの背景、監督の経歴などを調べると、『あっ、これなんじゃないか?』とフレーズが浮かんでくるときがあるんです。1つアイデアが出て、それに肉付けしていくという作業は、サッカーの実況と似た感覚がありました」と明かした。