最後のセッションとして、IIJ・佐々木太志氏より「MVNOの音声通話を巡る最新状況」と題して、MVNOにおける音声通話の最新事情が解説された。前のセッションが技術論であるのに対し、今度はMNOとMVNOの関係や行政との関わりといった、政治的な側面が強くなる。
MNOとMVNOの関係は、「事業者間接続」と「卸電気通信役務」の2つに分かれている。前者は主にデータ通信で適用される契約で、MVNO側にサーバー設備等が必要な代わりに、MNO側にも厳しい規律が適用される。対して後者は主に音声通話に使われる契約で、MVNO側は一切の設備をMNO側に任せることが可能な代わりにMNO側に課される規律もだいぶ緩いものとなっている。
このため、データ通信については原価ベースの料金が厳密に適用されて毎年値下げが行われてきたが、音声通話については原価にあたる「音声接続料」が安くなっているにも関わらず、2020年まで一度も卸料金の値下げが行われずにきていた。このためMVNOは「カケホーダイ」のような通話定額プランを適用できないという問題があり、MVNO側から改善が要求されていたのだ。
これまでもMVNOは中継電話サービスを使うなどして通話定額プランや割引サービスを提供してきたが、プレフィクスをつける(あるいは専用アプリを使う)必要があるなど、利便性ではMNOより劣っていた。そこでMVNOの団体は総務省に働きかけ続け、ついに2020年、モバイル音声卸を巡る代替性検証が行われた。
これは簡単にいうと、MVNOは「事業者間接続」に切り替えることが可能ならそうしなさい。ただし技術的・経済的・制度的に困難であれば、卸料金が不当に高いかどうかを評価し、必要に応じてMNOに業務改善命令を出しますよ、という総務省からのお達しだ。
MVNOとMNOの意見が対立する中、NTTドコモは「プレフィクスを付けずに中継電話が利用できる機能を開発する」という(比較的)前向きな意見を提出。これを受けてMNOの他2社やMVNO側もドコモ案を受け入れる形で譲歩した。
結果的に2020年度末からプレフィクス無しの自動接続が可能になり、音声通話付きながら格安の「ギガプラン」の登場や、プレフィクスを付けなくても中継会社を使った通話料が適用されるようになるなど、大きな動きが続いた。しかし評価基準cについては引き続き現在も検証中で、2021年12月に再度評価が行われるとのこと。これにより一段と値下げが行われる可能性もあるため、注目していきたい。
もう1つ、MVNOの電話番号直接指定に関する説明もあった。日本では電話番号を付与できるためには基地局を持っていることが法律で定められているため、MNOしか電話番号を設定できず、MVNOはMNOが番号を割り当てたSIMカードを提供する形になっている。
これに対し、総務省の情報通信審議会より、MVNOが電話番号を直接指定することを可能とする件の議論が始まった。MVNOが電話番号を直接指定できるようになれば、例えばWi-Fiのみで電話が可能になるWi-Fi Callingや、マルチキャリアMVNOやローカル5Gと公衆5Gなど、複数の回線で同じ番号を利用なサービスなどが実現可能になる。
とはいえ、これを実現するにはMVNO側にIMS(IP Multimedia Subsystem、1つ前の圓山氏のセッションを参照)の設備が必要になり、電話交換をMVNOが自ら運用しなければならない。これはコスト的にもかなり負荷が大きく、現時点でIIJとして具体的に何か決めていることはひとつもないとのことだった。
今回は初心者にも楽しいスマートフォンのカメラの話題から、マニアにも歯応えのある音声通話システムの話題まで、もりだくさんのIIJmio meetingとなった。技術的な話はちょっと難しい…という人にも、MVNO側の赤裸々な話が聞ける貴重な機会なので、モバイル業界全般に興味のある方はぜひ参加してみてはいかがだろうか。次回開催時期は未定だが、寒いうちか暖かくなるころまでには一度やりたいとのこと。次回もオンライン開催になる見込みだ。開催時期などの詳細はTwitterのIIJmio公式アカウントなどで確認してほしい。