続いて、『仮面ライダー 8人ライダーVS銀河王』の上映に先立ち、『仮面ライダー(新)』(1979~1980年)でスカイライダー/筑波洋を演じた村上弘明が登場した。
当時大学生だった村上は『仮面ライダー(新)』の主役を決めるため大々的に行われたオーディションを勝ち抜き、約4000人の中から筑波洋役を勝ち取った。オーディションを受けようと決めたときのことを訪ねられた村上は「僕の意志ではなくて、事務所が応募したんです。あまり興味がなかったので『断っていいですか』と言ったら『オーディションは自己表現の場なんだから』と叱られて、無理矢理のような形で会場へ連れて行かれました。1次、2次と審査を通ったあと、3次審査でオートバイのテストがあったんですね。最初の募集要件には『身長175cm以上、年齢27歳以下、自動二輪免許必須』とありましたが、僕はそのときバイクの乗り方を知らなかったんです。このグランドをバイクで一周してくださいと言われたんですが、どこをどうやったらギアチェンジできるかとか、どこにブレーキがあるのかもわからず、バイクを止めることができないので飛び降りたんですよ。そうしたら、バイクだけが石ノ森章太郎先生や関係者の方々がたくさんいる審査員席に突っ込んでいって……。これで落ちたと思ったら、なんと最終の5人に残っていました。後日、この5人でカメラテストをすることになったのですが、他の4人はみんな経験者で、芝居も上手いんですよ。何もできなかった僕が、なぜか8代目仮面ライダーに選ばれてしまったんです」と、オーディション中に大失敗をしたのにもかかわらず、見事主役に選ばれたことを振り返った。
村上は続けて「本日上映の『8人ライダーVS銀河王』にも出演しているブンちゃん(中村ブン)から聞いた話ですけど、最終審査で5人に絞られたとき、石ノ森先生が銀座のクラブでホステスさんに写真を見せ、みんなが指したのが僕だったらしいんです。そんな形で選ばれたのかと驚きましたが、何年も後になって平山亨プロデューサーから『それは違うよ。みんなで村上くんに決めたんだ。ただ、毎日放送の根岸さんという女性の方が村上くんを強く推していて、その熱意にほだされたところがあったね』と聞かされて、長年のわだかまりが氷解しました」と放送から20年後に行われたイベント内で、自身の主役起用の決め手を知らされたと、にこやかな表情で語った。
村上が演じる筑波洋は、襲い来るネオショッカーのアリコマンド(戦闘員)を豪快な動きで次々に倒し、迫る怪人の攻撃をギリギリでかわすなど、迫真のアクションが持ち味となった。アクションについて村上は「身体能力には自信がありましたが、どうやったらもっとスピードが出て力強い動きができるのか、撮影の1年間で研究をしました。仮面ライダーで立ち回りの基本を学んだことが、後の時代劇出演などで役に立ちましたね。仮面ライダーでは素手で、時代劇では剣を持ちますが、立ち回り、アクションの基本は『下半身』だと思います。上半身の動きが目立つんだけど、大事なのは強靭な下半身。僕と同郷(岩手県)の大谷翔平選手も下半身を鍛えぬいていますよね」と、仮面ライダー時代に培った立ち回りが後の演技キャリアに活かされていると言い、目を鋭く輝かせた。
『必殺仕事人V』(1985年)をはじめ、今では時代劇の二枚目スターの印象が強い村上だが、時代劇のヒーローを演じているとき、ふと新人時代の『仮面ライダー(新)』のイメージが甦ることがあったという。「NHKドラマ『柳生十兵衛七番勝負 最後の闘い』(2007年)で、私が演じる十兵衛の背後に親父殿(柳生宗矩)の亡霊が出る、振り向いてさっと刀で斬ると、スッといなくなるという場面を撮っているとき、以前にもこんな芝居をやったぞ……みたいな気持ちになりました。やがて、ああそうかと思い当たったのが『仮面ライダー』の最終回近く(第53話)で、憎い敵だと思っていた魔神提督(演:中庸助)が筑波洋の父親だった、というシーンです。50歳になって演じた芝居が、20歳のときの芝居とリンクしていたとは、不思議なめぐり合わせを感じましたね」と話し、『仮面ライダー(新)』での体験のひとつひとつが自身の心の奥底に刻まれていることをうかがわせた。
村上が演じるスカイライダー/筑波洋も、神敬介や村雨良のように現代の「仮面ライダー」シリーズで「復活」してほしいと熱烈に願う仮面ライダーファンは少なくない。そんなファンの思いについて村上は「ホン(脚本)によりますね。40年もの歳月を経た筑波洋は、まだ改造人間のままなのか。それとも、元の人間に戻っただろうか。最終回で、ネオショッカー大首領と一緒に宇宙で爆発したスカイライダーが“その後”どうなったのか、説明がしっかりついていれば面白いんですけれどね……」と、スカイライダー復活の鍵を握るのは「納得いく内容の脚本」が不可欠だと目を輝かせた。そして「コロナ禍の影響で時間ができたので『還暦を迎えた筑波洋、果たして変身できるのか』といったシナリオを自分で書いてみようかなと思っています」と、自身によるスカイライダー/筑波洋復活のアイデアを形にしたいと強い意欲を見せた。