今年6月にオンラインで開催されたCOMPUTEXの基調講演の中で、AMDはリテール向けにもRyzen 5000G Desktopを出荷する事を発表したが、いよいよその出荷準備が整った。そんなわけでまずはその性能をご紹介したい。

  • 今回入手した「Ryzen 7 5700G」と「Ryzen 5 5600G」

    今回入手した「Ryzen 7 5700G」と「Ryzen 5 5600G」

スペックに変更は無し

発売されるのは以前の予告通り、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 5600Gで、それぞれ$359、$259という価格になっている(Photo01)。発売日も以前アナウンスがあった通り、8月5日である。ちなみにSocketはSocket AM4のままであり、既存のAMD 400およびAMD 500シリーズのチップセットと互換性があるが、BIOSのバージョンに制約がついている(Photo02)。またここにも書いてあるが、パッケージにはWraith Stealthクーラーが付属している。

  • Photo01: この情報は以前と変わらず。

  • Photo02: とりあえずAGESA 1.1.8.0に準拠していれば、ブートは問題ないそうだ。古いAMD 400シリーズマザーボードとかだと、これもちょっと怪しいかもしれないが。

ちなみにAMDによる、Ryzen 5 3400Gとの性能比較がこちら(Photo03,04)。特にCPU性能に関しては大幅に向上しているとする。またGPUはまぁお察しとはいえ、中には大幅に性能が上がっているものもあるなど、やはりそれなりに性能改善は行われている。

  • Photo03: まぁRyzen 4000Gシリーズは公式にはOEM Onlyなので、比較が3000Gシリーズになるのは仕方がない。

  • Photo04: GPUそのものはRyzen 5 3400GもVegaベースの11CUなので、動作周波数が違うとはいえそう低いものではない。逆に言えばRyzen 5000GシリーズはVegaベースの8CUというあたり、あまりドラスティックに性能が改善されたわけではないともいえる。

ちなみに競合製品との性能比較、ということでCore i7-11700とRyzen 7 5700G(Photo05,06)、およびCore i5-11600とRyzen 5 5600G(Photo07,08)の性能比較も示されている。

  • Photo05: 内蔵GPUでの比較。勿論Ryzen 5 5700Gもそれほど高いわけではないが、Core i7-11700は輪をかけて低いので、まぁ妥当というか、なんというか。

  • Photo06: CPUがメインではもう少し結果が接近しているが、概ね良好な数字を出している。

  • Photo07: ちなみにMetro Exodus PC Enhanced Editionでないところがミソ(後ほどベンチマークパートで)。

  • Photo08: 6コア対決でも概ねRyzen 5 5600Gが有利とされる。

ちなみに当然FSR(FidelityFX Super Resolution)のサポートもあるが、こちらでRyzen Pro 7 4750Gの結果を示したように、元が低ければどんなに頑張っても限界がある、というのは事実であって、実用性はちょっと「?」ではあるが。

テスト環境

ということで今回借用したのはRyzen 5 5600GとRyzen 7 5700Gである(Photo09~12)。同然ながらWindowsからはきちんと認識された(Photo13~18)。

  • Photo09: パッケージ寸法は幅132mm×高さ135mm×奥行73mm、重量は438.2g(Ryzen 7 5700G)/442.5g(Ryzen 5 5600G)(いずれも実測値)。おそらくWraith Stealthの重量に多少ばらつきがあるのだろう。

  • Photo10: 側面からパッケージを確認できるのは以前と一緒。

  • Photo11: このほかに簡単な説明所が同梱される。

  • Photo12: CPUパッケージは同じもの。

  • Photo13: SteppingはMobile向けと同じ0のままだった。

  • Photo14: L3は16MBのまま。

  • Photo15: きちんと12論理コアが認識される。

  • Photo16: Ryzen 7 5700GもStepping 0。

  • Photo17: Cache構成も同じく。

  • Photo18: きちんと16論理コアが認識される。

さてこれに組み合わせるマザーボード、Photo02にあるようにAGESA 1.1.8.0以上のBIOSを搭載したマザーボードなら原則動作する筈なのだが、性能をきちんと評価するためにはAGESA 1.2.0.3b以上が必要になる。今回AMDからは、4メーカー(ASUS/ASRock/GIGABYTE/MSI)から各1製品に関しての対応BIOSの提供があり、ただどれも筆者の手元には無かったので「Amazonで翌日届き、値段が安い」という基準の元にASUSのROG STRIX B550-E Gamingを調達して利用した。

その他のテスト環境は表1の通りである。今回時間の関係でIntel系の評価は省かせていただき、Ryzen 7 4750GとRyzen 5 5600G/Ryzen 7 5700Gの比較のみをご紹介することにした(ごく一部のテストだけ、さらにRyzen 7 5800Xも追加している)。基本的な評価はGeForce RTX 3080を搭載した状態で行い、内蔵GPUを使った場合は別に結果を測定することにしている。

■表1
CPU Ryzen Pro 7 4750G Ryzen 5 5600G
Ryzen 7 5700G
M/B ASUS ROG STRIX B550-E Gaming
BIOS Version 2404
Memory Micron 16ATF2G64AZ-3G2E1(DDR4-3200 16GB CL22)×2
Video NVIDIA GeForce RTX 3080 FE/内蔵GPU
Driver GeForce Driver 471.41 DCH WHQL
Radeon Software 21.7.1-july15 Radeon Software 21.6.2-june29
Storage Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 10 Pro 日本語版 21H1 Build 19043.1110

以下グラフ中の表記は

  • 4750G:Ryzen Pro 7 4750G
  • 5600G:Ryzen 5 5600G
  • 5700G:Ryzen 7 5700G
  • 5800X:Ryzen 7 5800X

と表記している。また本文中の解像度表記は

  • 1K :1280×720pixel
  • 1.5K:1600×900pixel
  • 2K :1920×1080pixel
  • 2.5K:2560×1440pixel
  • 3K :3200×1800pixel
  • 4K :3840×2160pixel

とさせていただいた。

◆PCMark10 v2.1.2519(グラフ1~6)

PCMark10 v2.1.2519
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10

  • グラフ1

まずはこちらから。Overall(グラフ1)を見ると、どのテストでも明確な性能差があって、Zen 3コアの実力発揮という感じである。

  • グラフ2

  • グラフ3

  • グラフ4

  • グラフ5

  • グラフ6

Test Group(グラフ2)も同じく。Essentials(グラフ3)では、特にApp Startupでここまで性能差が出るか、というくらいに差があるのが特徴的だ。これはProductivity(グラフ4_でも同じで、差が付きにくいはずのWritingでも結構大きな差だし、Spreadsheetsでも明確である。Digital Contents Creation(グラフ5)はまぁこんな感じだろうというところだ。 Application(グラフ6)は実アプリケーション(Office365)でのスコアだが、これだけ大きな差がある(Wordは差が無いが、Excel/PowerPointは結構体感でも判るくらいに性能差がある)と、もうこれだけで現在Ryzen Pro 7 4750G(とかそれ以前のRyzen 3000Gシリーズとか)を使っているユーザーには乗り換えをお勧めしたくなる。

◆CineBench R23(グラフ7)

CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench

  • グラフ7

おなじみのこちらも。Multi-CPUではややRyzen Pro 7 4750GがRyzen 5 5600を上回る性能になっているが、これはもうコア数の違いが露骨だからという話で、同じ8コアのRyzen 7 5600Gとは2割近いスコアの差がある。Single CPUではこれが明確で、Ryzen 5000Gシリーズは10~15%の性能アップを果たしているのが判る。

◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.22.24(グラフ8)

TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.22.24
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

  • グラフ8

エンコード系でもう一つ、TMPGEnc Video Mastering Works 7も。エンコードはやっぱりコアの数が生きてくることもあり、Ryzen Pro 7 4750Gは辛うじてRyzen 5 5600Gを上回るスコアを出してはいるが、Ryzen 7 5700Gの敵ではないという格好。性能で言えば2割ほど、Ryzen 7 5700Gが上回っている。

余談であるが、内蔵GPUを使った場合の性能は今回測定していない。というのは内蔵GPUを有効にした状況でTMPGEnc Video Mastering Works 7を起動してエンコーダにAMD Media Encode SDKを選択するとこうなるからだ(Photo19)。おそらくTMPGEnc Video Mastering Works 7で利用されているAMD Media Encode SDKのバージョンがCezanneに未対応という事だと思うので、これはバージョンアップを待ちたいところだ。

  • Photo19: エンコードを開始して1分以上経過しているにも関わらず、1フレームもエンコードが行われていない。別に4Streamなのが問題というわけではなく、1Streamの場合でも同様である。

◆3DMark v2.19.7225(グラフ9~12)

3DMark v2.19.7225
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark

次は3DMarkを。とはいってもグラフィック性能は本来GPUで決まるから、焦点としては「CPUの違いでどこまでグラフィック性能が変わるか」がポイントとなる。

  • グラフ9

ということでまずはOverall(グラフ9)。殆ど変わらないもの(WildLife Extreme、FireStrike Extreme/Ultra、TimeSpy/TimeSpy Extreme、PortRoyal)と、大きく違うもの(WildLife、NightRaid、FireStrike)に分かれている感がある。

  • グラフ10

  • グラフ11

  • グラフ12

問題はこれが、Physics/CPU Testに起因する性能差か、Graphics Testに起因する性能差か? という話であるが、Graphics Score(グラフ10)をみるとWild Life/NightRideはGraphics Test、つまり実際にフレームレートが大きく変動している(NightRaidはちょっと極端な気がする)のが判る。逆にFireStrikeに関しては、若干差があるといえばあるという程度で、大きな性能差とは言えない。

こちらに関してはPhysics/CPU Test(グラフ11)で明らかなように、特にFireStrikeではCPU性能が露骨に反映されている格好(それもSingle ThreadではなくAll Thread性能)で、これが要因といえる。つまり3DMarkで言えば、WildLifeとNightRaidのみ、フレームレートそのものがCPU性能に大きく反映されやすく、実際にRyzen 7 4750Gからの伸びが大きいということになる。

Combined Score(グラフ12)は事実上FireStrike系のみしか残っていないが、FireStrikeのみ結果の変動が大きく、Extreme以上では性能差が無い、というあたりからもGPU負荷が高いとそれほど性能差が出にくくなる傾向が明確に示されており、そんなわけでGPU負荷が軽い環境ではGamingの性能に影響が出るという傾向が明確に示された形になる。