続いて「ギガプラントークセッション」と題して、ギガプランの開発に携わったスタッフらによる座談会形式のトークセッションが行われた。トークセッションは2部構成で行われ、前半が「ギガプランリリースの背景」、後半が「それぞれが考えた『IIJmioの生き残り』」というテーマになった。

  • 司会は先ほども登壇した辻氏。左からマーケティング代表として宮口詠美子氏、営業代表として石井氏桃子、サポート&サービス運用代表の廣嶋雍悦氏、立案の取りまとめ&サポート役の横井秀行氏、そしてお目付役・ご意見番として堂前氏が登壇した

まず、辻氏により新プラン導入の経緯が紹介された。2012年、IIJmioがMVNO市場に参入した時点では、キャリアとわずかなMVNOしかおらず、ユーザーはほとんどが通信に詳しいマニア層で、コンシューママーケットは未開のブルーオーシャンであった。

しかしその後、MVNO市場は激しい競争に見舞われ、さらにキャリアのサブブランドも登場するなど、市場はすっかりレッドオーシャンとなっていた。これまで建て増しを繰り返してサービスを拡張させてきたIIJmioでは、新たなプランの構築が難しくなっており、といって新たにキャンペーンでユーザーを惹きつけるにも、電気通信事業法が改正されて端末割引やセット販売などがやりにくい環境になっていた。

こうした中で、販売戦略担当のプロジェクトマネージャーである今井健氏が、「IIJmioの生き残りを賭け、今までの概念に囚われない新しいプランを作ろう」と、部署や年齢層、立場を考慮せず話し合う新プロジェクトを2019年冬に始動。この呼びかけに答えて、全社から人員が集まってプロジェクトがスタートしたのが始まりだという。

前述のように、ギガプランの開発には、IIJmioの生き残りを賭けた新プランを開発するという、全社的プロジェクトが関わっていた。後半はこのプロジェクトに参加した面々から、それぞれの立場でどのような施策に関わったかが語られた。

新プロジェクトに最初から参加していた宮口詠美子氏は、IIJmioの顧客が年々音声プランの割合が高くなっていることに着目し、「音声プランのみでいいのでは?」と思っていたとのこと。また、ターゲットにはマニアではなくメインストリーム市場を狙うべきだと考えていたが、メインストリームの人々のリアルな声を聞いてみると、データSIMへの認知度が低く、IIJmioはSIMを追加した時の他社との値段の比較もわかりづらいとの反応が多かった。

そこで、これらを踏まえて2019年夏頃に、新プランの最初の候補として「音声SIMのみ、容量は4種類、1プランSIM1枚(追加は可能、割引あり)、データシェア機能なし」を立案し、その後数々の議論を経て、2020年冬には、容量を2GBから20GBまでの5段階にし、既存プランは残すものの、新プランがすべてをリプレースするという形で、音声に加えてデータおよびSMSのSIMも提供し、データシェアもあり、データSIMではeSIMも提供するというプランが最終案としてリリース直前まで進んで行ったという。

しかし2020年9月、菅政権の目玉政策として携帯電話値下げが打ち出され、2020年12月にはNTTドコモの「ahamo」をはじめとするキャリア各社の新プランが登場したことで、事態は大きく変化してしまった。ユーザーからは「mioの新プランはまだ?」と期待が高まるとともに、ユーザーはシンプルで安くて自由度の高いものを求めているのだという気付きから、再度「ユーザーは一番何を求めているのか」と、直前でプランを見直すことになった。特に価格は、消費税の表記が外税から内税に変わる節目でもあったため、ギリギリまで内容を詰めていたという。そして最終的に生まれたのが、「シンプル」「自由度が高い」「自分たちが使いたいと思うサービス」を満たす「ギガプラン」となったわけだ。

IIJmioでは主に代理店向けの営業を担当している石井桃子氏は、現場からの声として、お客様のニーズが多様化している中で、単に安いだけでなく、わかりやすくカスタマイズ性が高い仕様が必要とされていると感じていたという。従って新プランでは、コアユーザーにもライトユーザーにも満足してもらえるサービスを目指したいとした。

そして既存プランの問題点として、データシェアの仕組みがわかりにくいことを挙げ、ギガプランでは1プラン1SIMとし、プラン間でデータシェアできることにした。また、多様なニーズに応えるために、容量プランを5種類用意し、さらに「技術のIIJ」をワンメッセージでアピールするため、eSIMの月額プラン対応と、5Gの無料対応が必要であるとした。

また、IIJだけの視点ではマニアックになっていく一方なので、代理店や現場の販売員からの意見をもとに、利用者にとってベストなサービスは何か、安さだけではないIIJの良さを伝えられることを目標にしたという。とはいえ、現在のものがベストというわけではなく、今後も引き続きIIJmio meetingなどで取り入れた意見などをもとにサービスをブラッシュアップしていきたいとまとめた。

IIJmioサービスのサポート設計・運用を担当している廣嶋雍悦氏は、企業的体力も圧倒的に違う3大キャリアと、限界近くまで値下げされ、料金は横ばいになり、レッドオーシャンで顧客を取り合うようなMVNOに挟まれて、大手キャリアとも、格安スマホとも戦える、皆が「こういうのでいいんだよ」と思うプランはなんだろうとずっと考えていたという。

そこで廣嶋氏が狙ったのが、プランを選ぶ必要がないくらいシンプルで、月々の利用量にバラつきがあっても無駄がなく、シンプルでかつ安い「IIJmio モバイルプラス 従量制プラン」だった。2020年の8月に登場した同プランは、エコプランをベースに開発できたため、開発工数が少なく、ローコストで開発できたことも大きかったという。

同プランは使いすぎにならないよう、あらかじめ決めておいた容量でストッパーを設定できるなど、使い勝手の面でも気が配られており、新型コロナの影響でテレワークに移行し、月々の通信量にばらつきが出るケースが増えていたこともあり、Twitterなどでも「こういうのが欲しかった」と好評を得た。ギガプランばかりが目立つが、従量制プランもまた、IIJmioの生き残りを賭けた新プランであり、その狙いは市場にきちんと受け入れられているようだ。

ギガプラン立案の取りまとめとサービス構築・運用を担当した横井秀行氏は、サポート担当として、お客様からの不評な点を洗い出してみたところ、SIMの追加ルールがわかりにくいこと、別プランとデータシェアを行うには「プランまとめ」が必要なこと、「クーポン」などの用語の意味がわかりづらいことなどが挙げられた。こうした不評な点はすべてギガプランにおいて改善されているという。

また、ギガプランでは、既存プランの利用者にも魅力的なプランになるよう、既存プランより概ね安くなるような料金設定、eSIMにもデータシェアを適用、他プランより安い追加容量などを設定したという。

最後に、当日は参加できなかったが、ギガプランを形にするのに尽力した宮垣遼平氏から、ギガプランにかけた思いが伝えられた。これによると、ギガプランでは開発に関わった企画、開発、営業、マーケティング、サポートの意見を全部集め、「やりたいこと、欲しいもの全部盛り」を実現することがモチベーションだったという。

そしてIIJmioの特徴でもあるシェア機能をわかりやすく作り直したことや、ahamoショックの影響で極めて短期でサービスを作り込まねばならなかったことなどが苦労した点だったとのことだった。

今回登壇された全員に共通するのは、既存の問題点をそれぞれの立場から分析し、新プランをいいものにしようという意欲が強く感じられたことだ。既存のシステムを破壊して新しいシステムを作るというのは大変なことだが、こうした熱意がギガプランを成功裡にリリースするに至った原因だろう。普段、なかなかこうした企業活動の舞台裏を見ることは少ないが、そういう内容にも触れられるのがIIJmio meetingの醍醐味といえる。

今回はギガプランの開発秘話が中心となったが、いつも通りに笑いも挟みつつ、濃い内容でもりだくさんのIIJmio meetingとなった。次回開催時期は未定だが、次回もオンライン開催になる見込みとのこと。地方在住でなかなかイベントに参加できないという方にも参加しやすい機会なので、MVNO業界や通信全般に興味のある方はぜひ参加してみてはいかがだろうか。開催時期などの詳細はTwitterのIIJmio公式アカウントなどで確認してほしい。