水野:さっき志望動機の話がありましたけど、それがすごく大事な時代になっていると思っていて。「多くの人を楽しませたい」とか「誰かを思い切り熱狂させたい」という志望動機があるときに、テレビ局であってもその方法が地上波じゃなくていい時代になっていて、橋本さんのように演劇でやる人もいる。それはYouTubeであってもいいわけだし、その中で僕らはテレビ局の人間だから地上波をどううまく使おうかと考えられるくらいのことなんですよね。

橋本:だから、“表現しないと生きていけない人間”のほうが向いてるんじゃないかなあ。「この人、面白いからどうにかしたいんです!」とか「こういうこと思いついたんで、何か形にしたいんです!」という人。

木月:僕がやってる『久保みねヒャダ』はまさにそうですね。あれは、地上波が終了となっても、どうしても終わらせたくなくて今でも続いているので。

橋本:あれは木月さんの思いが一番詰まってるコンテンツな感じがする(笑)

  • 『久保みねヒャダこじらせナイト』…2017年9月に地上波レギュラー放送の『久保みねヒャダこじらせナイト』が終了後、月1回の有料トークイベント『久保みねヒャダこじらせライブ』(現在は『久保みねヒャダこじらせオンラインライブ』)として継続中。

木月:さっき橋本さんが言ったように、「終わらしてなるものか」と一緒に思ってくれる仲間とか、ライツの部署の方々の協力があってできています。『FNS歌謡祭 夏』(7月14日放送)では、裏生配信を『久保みねヒャダ』が番組単位で担当しました。スポンサーさんにまで付いていただいて、新たなビジネスの形を作ることができました。

橋本:こうなってくると、若い人に「テレビ」を選んでもらえるように僕らは頑張っていかないとと思いますね。水野さんがやってるループアニメもそうだし、木月さんがやってる『久保みねヒャダ』もそうだし、『有吉の壁』でYouTubeをやってるのもそうだし、そういういろんな接触面をテレビ界がちゃんと見せていかないと、若い子が選んでくれないじゃないですか。「今、何でテレビなんですか?」と言われたときに、「テレビに入れば、イベントも配信もやれるし、舞台もやれるから、なんでテレビを選ばないの?」って堂々と言えるようにしないといけないというのが、僕らの世代の責任だと思ってるんです。まだ10年後もテレビにいるかもしれない人たちの責任ってそこが重い気がしていて。地上波でレギュラー番組2本3本やってる中で、みんなヘロヘロなわけじゃないですか(笑)。だけど、絶対そこで表現を終わらせず、「やりたい」とあがいているのは、相当お互いに勇気づけられてる気がするので、最初の孤独な演出たちがこうしてつながっていく話に戻るんです(笑)。その気持ちがない人って、テレビ作ってヘロヘロになって終わっちゃいますもんね。

(一同笑い)

  • 【令和テレビ談義】はリモートで深夜まで繰り広げられた…

■地上波の強みをテレビ局が見失っていないか

橋本:ある意味、水野さんが朝4時の枠をやっても、そんなに評価されないと思うんです(笑)

水野:はい(笑)

橋本:でも別にそこって関係ない。2021年の今において、あまり評価されないし、すごく大きい売上が上がるわけではないことをやってるかどうかって、テレビマンとしては今めちゃくちゃ大事なことだと思います。

水野:GO(※4)とかチョコレイトの人たちと話していると、クリエイティブの分野で最先端を走っているような人たちのほうがマスの強さをよく分かってる感じがします。僕は大阪の局だから、このまま地上波のテレビ局で働いていていいのかって常に自問自答するんです。多くの人に受け身で見てもらえているのって今でも一番の強みなんだけど、実はテレビ局が一番それを自分たちで見失ってるから、CSでもやらないような視聴者層の狭い企画をこすり倒すようなことしている。チャンスがあるのに、自ら失敗しているような感じのことがいっぱいあるんですけど、GOとかチョコレイトとかあれだけ情報感度の高い人たちは、「マスって改めて強いですよね」と言ってるんですね。

(※4)株式会社GO…元博報堂の三浦崇宏氏、元電通の福本龍馬氏が代表を務めるクリエイティブカンパニー。

橋本:やっぱりこれだけの人数に一気に映像が届けられる価値というのをよっぽど分かってますよね。地上波の人間のほうがよっぽど分かってないから使いこなせずにどうでもいいバラエティとか作っちゃうんですよ。それは本当に思いますね。

次回予告…~激戦!火7バラエティ演出編~

●橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、『24時間テレビ41』では総合演出。現在は『有吉の壁』『有吉ゼミ』『マツコ会議』といったバラエティのほか、『寝ないの?小山内三兄弟』『でっけぇ風呂場で待ってます』『ナゾドキシアター「アシタを忘れないで」』などドラマ・舞台も手がける。

●水野雅之
1977年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、00年に毎日放送入社。営業局で6年勤務した後、制作に異動し、大阪本社で『ちちんぷいぷい』を担当。2年後に東京支社の制作に異動し、『チェック!ザ・No.1』『地球感動配達人 走れ!ポストマン』をへて、『イチハチ』で初の総合演出となり、浜田雅功と初仕事。現在放送中の『プレバト!!』、『日曜日の初耳学』の前身『林先生が驚く初耳学!』、『教えてもらう前と後』と、TBS系列ゴールデン・プライム帯におけるMBS制作の全番組を立ち上げた。

●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』などを経て、現在は『久保みねヒャダこじらせナイト』のほか、『新しいカギ』『痛快TVスカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『千鳥の対決旅』『芸人サバイバルトーク!上田に火をつけろ』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。