乗員のことを考えたクルマづくり

シトロエンというと読者諸兄はどのようなイメージをお持ちだろうか。どちらかというとコンパクトなクルマのイメージが多いのではないか。しかし、過去を振り返ると、シトロエンは大統領専用車になるような大型車を作ったこともある。C5エアクロスSUVのようなサイズのクルマも、彼らにとっては得意な分野ということができる。

C5エアクロスSUV PHEVは、近くで見ると数字以上に大きく感じるクルマだ。ボンネットの位置が高いから、そう見えるのだろう。ただ、運転する上で高いボンネットはメリットになる。このボンネット、左右がわずかに盛り上がっているので、車幅をつかむのに大いに役立つのだ。

  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」

    ボンネットの左右が盛り上がっているので車幅がつかみやすい

ドアを開けて乗り込もうとして気付いたことがある。それは、ドアがボディの下側まで覆うような形状になっていることだ。これには少なくとも2つのメリットがある。ひとつは遮音だ。これにより、ロードノイズなどを大幅に遮断することができる。

  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」

    ドアがボディの下側まで覆うような形状となっている

もうひとつは、特に車高の高いSUVでは重要なことなのだが、天候が悪いとき、あるいは悪路を走った後にクルマから降りるとき、パンツやスカートの裾を汚さずに済むということだ。多くのクルマはドアがボディの下まで回り込んでいないため、「サイドシル」と呼ばれるドアの下の部分がむき出しになっているので、泥跳ねなどがそこに付着してしまい、裾周りが触れて汚れてしまうのだ。C5エアクロスSUVではそれを防げるのがありがたい。ドアを閉めるときの音も重厚感があり、いいクルマだなと思わせてくれる。

シートに腰掛けると、これまでに味わったクルマのシートのかけ心地とは全く違う印象に驚くに違いない。ぎっしりと中身が詰まった肉厚なシートに腰を下ろすだけで、疲れずにどこまでも走っていけそうな気持ちにさせてくれる。

  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」
  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」
  • ぎっしりと中身が詰まった肉厚なシート

ハイブリッドの制御はいまひとつ

残念ながら、センターコンソールは左ハンドルのままのレイアウトになっているので、スタート・ストップスイッチは前方助手席側にあり、ドライバーからは最も遠くに配されている。それを長押ししてエンジンをかけるのだが、もしこの時点で充電残量があればエンジンは動き出さない。これもまた左ハンドル用のままで助手席側に寄ったセレクトレバーを手前に引けば、準備万端、いつでもスタートができる。

ゆっくりとアクセルペダルを踏み込むと、多くの場合、モーターのみでスタートする。この時はほかのEVと同様、極めてスムーズの一言に尽きる。内燃機関から乗り換えても全く違和感はないし、アクセルペダルを踏み込めば思い通りの加速が開始されるので、そういった面でのストレスもない。

  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」

    モーターのみでのスタートはスムーズの一言

しかし、電力を使い果たし、ハイブリッドモードになると少々具合が悪くなる。日本車のハイブリッドだと、いつエンジンがかかったのか気付かないくらいの制御が施されているクルマも多いのだが、C5エアクロスSUVはしっかりとエンジンのオンオフを主張してくる。特にスタート時は顕著だ。まずモーターでスタートし、タイヤ1回転程度でエンジンがスタートするのだが、その際にゴツンというショックが伝わってきてしまう。そこから3,000回転弱までエンジンを引っ張ってシフトアップするときも、若干のショックを感じることがある。そういった面での洗練が足りていないようで、ひとつひとつの動作が手に取るようにわかってしまうのだ。

ブレーキにも違和感が残る。信号の手前でブレーキペダルに足を掛け徐々に踏み込んでいくと、まず初めは思ったほどの制動力が得られず、より強く踏むと、今度は急激に減速力が立ち上がってしまい、制動力のコントロールが少々やりにくい印象を受けた。そこで、試しに一定の踏力でブレーキペダルを踏み減速していくと、その時々で減速力に変化が生じており、特に停まりがけで強くなる傾向にあった。これは想像だが、こういった挙動には回生ブレーキが影響していそうだ。回生ブレーキとは減速時のエネルギーを電気に変えるシステムで、それをバッテリーに充電し、再び電力として使う仕組みなのだが、その際にブレーキのサーボに影響を与え、その結果、踏力に変化を生じさせてしまっているものと思われる。

もうひとつ、街中で気になったことを挙げておこう。それは、渋滞時などでの停止中、充電のためにエンジンが始動したときのことだ。このときの回転数は、タコメーターに細かい目盛りがないためおおよそだが、1,500rpm程になる。それはそれでいいのだが、発進しようとブレーキペダルから足を放すと、アイドリングまで回転を下げようとする。ただ、そのタイミングが少々遅く、アクセルペダルを踏み込むタイミングとバッティングして、回転が落ちかかりながら、再び回転を上げるというギクシャクした動きを伴い、スムーズな発進を妨げることが度々あった。このあたりは、もう少し緻密な制御を望んでおこう。なお、こういったことはPHEVのみのことであり、ガソリンやディーゼルモデルでは感じられなかったことを付け加えておく。

  • シトロエン「C5エアクロスSUV PHEV」

    ハイブリッド走行の制御はいまひとつという感じだった