慶喜と円四郎、2人で力を合わせ国のために尽力しようと思ったその矢先、円四郎は尊王攘夷派に暗殺される。あまりに突然の、カットアウトのような人生の終わり。そのときは雨、それも土砂降りである。
「大森美香さんの脚本では『雨が降りそうな不穏な中で』と書いてありましたが、雨を降らしました。慶喜の涙をあえて雨で隠そうと思ったんです。嗚咽を漏らすときに出る涙や唾液のような物質がたとえなくても、草なぎさんの全身からは本物の感情が出ると確信していたからです」
実際、草なぎの演技を目の当たりにした村橋氏は息を飲むほどだったと言う。「草なぎさんはテストなしで一発本番を好む方です。だから事前にあまり打ち合わせをせず、最低限の情報――たとえば『雨を降らします』というようなことだけお伝えし、最初のテイクでどんなふうになるのか楽しみに見ていました。1回見逃したら二度と見ることのできないようなクオリティーの表現をされて本当にすごかったです」
俳優・草なぎ剛の魅力を村橋氏は絶賛。「いいとしか言えない俳優ですよね。ほかの映画監督の方も言っていることですが、ぽん! と座った瞬間、役になってしまう。とりわけ徳川慶喜は、何を考えているかわからない人物ながら不思議と誰もが惹かれてしまう魅力をもった人物。一般人の手が届かない雰囲気の慶喜像とはいったいどういう人なのか具体的にわからなかったけれど、草なぎさんが現場に入ってセットに座った瞬間、『あ、いた、慶喜だ』って思ったんです」