「別れた夫に引き取られた息子を取り返した」「夫と息子を立て続けに亡くした」「実の母親によって芸者の置屋に売られた」「16歳で18歳の男性と結婚して駆け落ちしたが、半年後に死なれて親の勧めで嫌な男と結婚するはめになった」――壮絶な経験しているママたちからは、一様に精神的な強さを感じたという。
長年ドキュメンタリーを撮り続けてきた山本氏だが、こんなにドラマチックな人生を歩んできた人が凝縮している場所は「本当に見たことないです。びっくりしました!」と驚くほどだ。
前編では、裏社会の“その筋”の人がやってきても、「京子」のママがいつも体を張って守ってきたことを紹介していたが、「話を聞くと、ナイフを持って構え合っている本当の修羅場だったそうなんですけど、京子ママは『ああいう人たちはね、言い方ひとつで激昂したり優しくなったりするのよ…』ってサラサラしゃべるんです。言葉ってドラマチックに話せばいいわけじゃなくて、淡々としゃべるからこそ、その向こうにある世界を想像できることもあるんだという発見がありました。修飾語がないのに、世界がすごく広がっているのを感じたんです」と振り返る。
■全く予期しなかった20年ぶりの母娘再会
どのエピソードもドラマがあるがゆえに、「あの話も入れたい、この話も入れたいとなって、本当に編集が大変でした」と悩んだそう。その中でも丁寧に描いたのは、「ラブ」のママと、20年前に生き別れた娘との再会だ。このシーンは、全く予期しなかったタイミングで訪れた。
「『ラブ』のママは、こっちから聞いてもなかなか自分の過去を話してくれない人だったので、難しいなと思ってたんです。そしたら、いきなり『ラブママのところに娘が来てるらしいぞ!』という話があって、行ってみたらあんなドラマが起きていたので、一気にラブママの話が大きくなっていきました」
前編の最後では、20年ぶりという感動の再会を果たしたにもかかわらず、かつてママが家を出ることになった詳しい事情を娘が問い詰めても答えてくれないため、険悪な雰囲気に。後編では、この母娘のその後が描かれる。