フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で、30日(13:40~ ※関東ローカル)に放送された『酒と涙と女たちの歌 ~塙山キャバレー物語~ 前編』。茨城県日立市の国道沿いにトタン張りの小さな建物が肩を寄せあうように立ち並ぶ飲み屋街「塙山キャバレー」の人々の姿を映し出した作品で、夫と息子を立て続けに亡くしたママや、20年前に生き別れた娘と再会を果たすママなど、壮絶な人生を送ってきた人たちが次々に登場した。
取材したのは、映像作家の山本草介氏。約5カ月にわたる長期密着で塙山キャバレーの人々と接し、「価値観を揺さぶられました」という同氏に、6月6日(14:00~)の後編放送に向けて話を聞いた――。
■ひたすら店に通って信頼獲得
山本氏が塙山キャバレーを取材するきっかけは、今回の番組の構成を手掛ける茂原雄二氏から「面白い飲み屋街があるから、一緒に行こう」と誘われたことだった。
取材の下調べで実際に店に行き、数軒回ってママたちの話を聞いていくと、「何か匂い立つ人生の重さみたいなのを感じたんです」(山本氏、以下同)といい、ここに集まる人々をテーマにしたドキュメンタリーの企画を立てた。すると、『ザ・ノンフィクション』での放送が決まり、昨年10月に動き始めたという。
しかし、撮影が始まったのは12月。吉岡里帆のナレーションで「店のママたちにようやく許可を得て――」と説明されている通り、すぐにカメラを回すことはできなかった。
「やっぱりママたちの“禁断の世界”なので、なかなか入れなかったんです。まず、僕自身のことを信じてもらうために、ひたすらお店に通って飲んで、『何を撮りたいのか』について、話をしていきました」
■「目を合わせなかったら、撮らせなかった」
これまで何十年にもわたって客と接してきたママたちは、いわば“人を見るプロ”だが、山本氏のことをどう見ていたのか。
「『めぐみ』という店のママは、『もしあなたが私と目を合わせなかったら、撮らせなかった』と言っていました。目を合わせないお客さんは何かあるのですぐ帰すようにするとか、ママたちにそれぞれルールや人の見極め方があるんです。そこで、何とか合格点をいただけたのか、撮らせてもらえることになりました」
取材は現地にアパートを借り、約5カ月にわたって毎日のようにお店に通ってカメラを回し、その日の撮影が終わると飲むというスタイルで、信頼を獲得。ママも客も年配の人が多いため、東京でPCR検査を受け、陰性を確認してから日立市に訪れるということを徹底した。