スマートフォンユーザーの必携アイテムといえば「イヤホン」。イヤホンジャックを搭載しないスマートフォンが増える現在、ユーザーに求められているのはBluetooth接続タイプ、それも左右ユニット間をつなぐケーブルすら必要ない「完全ワイヤレス(TWS)イヤホン」だ。
TWSイヤホンを選ぶときの基準といえば、デザインやブランドのほか、音質やノイズキャンセリング機能(NC)の有無といった機能面を思い浮かべるが、もうひとつ「SoC」という視点もある。SoCの観点から完全ワイヤレスイヤホンを眺めるとともに、オンライン専売モデルを3製品ピックアップし、実際の使用感を紹介しよう。
いまさら聞けない「TWSイヤホンのSoC」
PCやスマートフォンのいわゆる中央演算処理装置(CPU)は高集積化が進み、メモリやGPUをも内包するSoC(System-On-a-Chip)※へと進化したが、Bluetoothイヤホンにおいても同様の変化がある。
※注:実装方式によっては「SiP(System-In-a-Chip)」と表記すべきチップもあるが、ここでは「SoC」で表記を統一する。
当初はBluetoothの電波を受信し、符号化された信号を復号化する役割を担う程度だったチップが、デジタル信号をアナログ信号へと変換する機能(DAC)やアナログ信号を増幅する機能(アンプ)をも担うようになった。Blutoothイヤホンとしてのコア機能をワンチップで実現できれば、小型軽量化にも有利だ。
もうひとつ、Bluetoothイヤホンには「ノイズキャンセル(NC)」のサポートという“時代の要請”がある。NCには周囲の雑音が耳に届かないよう(耳栓のように)物理的に遮断する「パッシブ方式」と、マイクで集音したノイズと正反対(逆位相)の波形を生成・出力して打ち消すことでノイズを低減させる「アクティブ方式」(アクティブノイズキャンセル=ANC)の2種類あるが、後者は逆位相の波形を作り出す精度がNCの効きに直結するため、演算性能がカギとなる。SoCの演算性能が高いほど効きを期待できる、というわけだ。
そのような背景のもと登場したのが、ソニーのノイズキャンセリングプロセッサー「QN1e」。大ヒットしたNC対応ワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM3」が搭載する「QN1」チップを、TWSイヤホンなど小型機用に最適化したもので、2019年発売のNC対応TWSイヤホン「WF-1000XM3」に初搭載された。DACやアンプといった音質に関わる部分にも妥協のない、音響機器が祖業のソニーらしいSoCといえる。
Appleの「AirPods Pro」に搭載されている「H1」チップも、NCを強く意識したSoCだ。10基のオーディオコアによる高い演算性能により遅延を抑えることで、NC性能を高めることに成功している。省電力性能も強みだ。
スマートフォン向けSoC「Snapdragon」などで知られるQualcomm(クアルコム)も、TWSイヤホン向けSoCに力を入れている。そのひとつ「QCC3040」は、オプションでNCをサポートするほか、左右同時伝送技術「TrueWireless Mirroring」、可変ビットレートのコーデック「aptX Adaptive」など機能が充実。通信安定性にも定評があり、採用するTWSイヤホンが相次ぐのもうなずけるところだ。
一方、急速に追い上げているのが台湾や中国のチップベンダー。たとえば、台湾のAirohaは左右同時伝送技術「MCSync」をいち早く採用し、音が途切れにくいTWSイヤホンの裾野を広げることに成功した。RealTekやBesTechnicといったベンダーも、NC対応のチップを投入している。
現状、QN1eはソニー製品、H1はApple製品(Beats by Dr. Dre製品も含む)にしか供給されていないし、QualcommのSoCもイヤホンメーカー設計者の言を借りれば「安くはない」といわれているから、手頃な価格で高機能なTWSイヤホンにはそれら中台ベンダー製SoCが採用されることになる。
では、中台ベンダー製のSoCを採用したTWSイヤホンは、実際のところどうなのか? 今回は、オンライン販売オンリーの3製品をピックアップし、その実力を確かめてみた。