――先日追悼特番として放送された『’87初恋』はご覧になりましたか?
何十年かぶりに見ました。今まで名場面集とかで見ることはあっても、最初から最後までっていうのはなくって、だけど面白かったですね。随分カットされてたりはしたんですけど、まあこのくらいカットしてもいいのかなって思ったり(笑)
でも、やっぱり見ていて最大の印象は、邦さんと純ですね。素晴らしい演技でした。撮ってる風景なんかは何となくイメージとしてはあったんだけど、芝居としては全く忘れていたので、「えー、邦さんこういう芝居してたんだな」「親子の何とも言えない情愛が実に出てるなあ。こんなにも素晴らしかったのか」って思いましたね。
あとこのドラマは、やっぱり自分の経験や人生みたいなものと常に照らし合わせてくれるなぁって思いました。そういうドラマってすごく少なくて、大体物語として面白いって入っていくことが多いと思うんだけど、自分のことをいつもそこに置きながら見るっていうのは、意外にないんですよね。だから見ながら、「ああこんな風に息子にギクシャクして言えねぇなってこと分かるな…」とか、「自分もあの頃、親につっかかってたな…」とか、そういう自分を中心とした『北の国から』がありましたね。
僕らは、作ってるときに全くそんなことは思ってなかったんだけれども、やっぱり放送されてリアクションを受けると、そうやって自分の人生と『北の国から』の関わり方みたいなのを語る人が多いですよね。そういう意味では、僕らが作ったんだけれども、そこから産み落としただけで、育てたのはやっぱりお客さん(=視聴者)なんですよね。
――改めて、田中邦衛さんの魅力は何でしょうか?
一番の魅力は“どこにでもいる人”ってところですね。これは俳優の中で、実はすごく少ないことなんだけど、それでいて地味かっていうと、地味じゃないんですよ。それなりに光るものがあって、だけどもそこにいる人っていう。野の花のような、雑草のようだけど花はある…そういう感じに近いかな。だからすごくリアルな感じがしちゃうんだよね。
邦さんの芝居は、ややオーバーにしているんだけど、そんな風に感じないところがあるよね。なんか「自分の親父もこんな感じがあったのかな」とか、あるいは「自分も父親としてこういうところもあるな」とか、そういうことを思わせる人だよね。だから五郎は邦さんじゃないと成立しなかったですよ。
<日本映画専門チャンネルでは、5月8日・9日に『北の国から』<デジタルリマスター版>スペシャル版全8作品(『’83冬』『’84夏』『’87初恋』『’89帰郷』『’92巣立ち 前・後編』『’95秘密』『’98時代 前・後編』『2002遺言 前・後編』)を一挙放送。連日12時にスタートする。>
●杉田 成道(すぎた しげみち)
1943年生まれ、愛知県豊橋市出身。慶應義塾大学卒業後、67年にフジテレビジョン入社。73年に『肝っ玉捕物帖』で演出家デビュー。81年から22年間続いた不朽の名作『北の国から』を演出し、同作は02年に第50回菊池寛賞を受賞。また、『失われた時の流れを』(90年)で第27回ギャラクシー大賞、『1970 ぼくたちの青春』(91年)で第18回放送文化基金番組賞、『町』(98年)で第52回芸術祭大賞、『少年H』で第54回芸術祭優秀賞を受賞。個人では92年に芸術選奨文部大臣新人賞、01年に放送文化基金放送文化を受賞。
そのほか主な演出に、連続ドラマ『ライスカレー』(86年)、『若者たち2014』(14年)、スペシャルドラマ『海峡を渡るバイオリン』(04年)、『死亡推定時刻』(06年)、『駅路』(09年)、舞台『陽だまりの樹』(92・95・98年)、『幕末純情伝』(03年、11年に再演)、映画『優駿 ORACION』(88年)、『ラストソング』(94年)、『最後の忠臣蔵』(10年) など、アニメ『ジョバンニの島』(14年)では原作脚本を手がける。10年には著書『願わくは、鳩のごとくに』を出版、12年にはAKB48 25thシングル「GIVE ME FIVE!」のミュージックビデオを演出した。時代劇専門チャンネルでは、『果し合い』(15年)、『小さな橋で』(17年)、『帰郷』(19年)を演出。
現在、フジテレビ編成制作局エグゼクティブ・ディレクター、日本映画放送代表取締役社長を務める。