• 『北の国から’92巣立ち』より 五郎(田中邦衛さん)が吹雪に埋もれるシーン (C)フジテレビジョン

――邦衛さんとの印象的なエピソードはありますか。

『’92巣立ち』のときかな、屋根の雪かきの最中、転落して丸太に挟まってしまって、そこが吹雪になり埋もれてしまうというシーンがあるんだけど、その台本ができたらすぐに邦さんから電話がかかってきて、「これ本当にやるのかよ!」って。だから「やりますよ」って答えたら、「死ぬなー」って邦さんが言って、僕が「死にますね…」って言ったらガチャンと切られちゃった、そんなことがありました(笑)

――すごい会話です(笑)。それはどのような撮影だったのでしょうか。

『北の国から』って全部“本物”でやるんです。いつの間にかそうなったんだけど、だからあのシーンも本当にやるわけです。1週間、夜になるとそればっかり撮ってましたね。ダンプカーを10台ぐらい呼んで、黒澤明監督が『羅生門』で使ったっていう大きな扇風機があるんですけど、それを東京から2台持ってきて使いました。

まず雪の山を作って、それを除雪車で吹き上げて、扇風機で吹雪を作るんですけど、大体風速30メートルぐらいだからもう立っていられないんです。僕らも試しましたが、寒さを通りこして痛くて20秒といられないんですけど、それを邦さんにだいたい10分は当ててましたね。それを芝居は全て頭からケツまでやるから、「よーいスタート」って言った後から吹雪を当てて、邦さんは芝居をしてるんだけども、本当はカメラを回してないんですよ(笑)。だんだん瞬間的に凍っちゃったり、それで顔が真っ赤になったりするんだけど、そこが狙いだったんです。だからそうなるまで待って、後半そろそろ回そうかって言って回すんです(笑)

――邦衛さんは撮ってないことを知らないんですね!?

教えるなって言うんです(笑)。だけどそれはいつものことで、最後にちょっとだけあるワンカットでも、いつも最初からやるようにしていました。なぜかって言うと、感情の持続があって、普通は「よーいスタート」って言ってから芝居をやるんだけど、それは違うなって、そこへ至るまでの感情を持続させたかったんですね。その流れを皮膚感覚でやってもらいたいなと。

ひどいのはシーンの前に、本に何も書いてなくても続けてやったりするんです(笑)。シチュエーションだけ作って、そのままシーンに入っていくということもしました。

  • 『北の国から』を演出した杉田成道監督

■「芝居しないでくれ」とだけ伝える演出

――邦衛さんに対する演技指導というのはあったのですか?

指導するんじゃなくって、僕は邦さんに一点だけ、「芝居しないでくれ」って言うんです。ただいるだけでいいからって。それが一番難しいんですけれども、とにかく演じなきゃっていう意識を消すということですね。これは“言うは易し”で、至難の業なんです。だけどそれをお互い分かりながらも、僕は「常にただ相手の芝居の空気を受けるだけでいい」とか、「こっちから何かしようとすれば逆に汚れちゃうからやらないほうがいい」とか、そういうことを言ってましたね。

ただ、純と螢は逆です。彼らはもともと“芝居をしない”感じなので、むしろ芝居をつけるんですよ。ちょっと臭いけどこうやるんだとか、邦さんとは全く違うことを言ってる感じでした。