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時代劇を執筆するにあたって気になるのが、言葉の問題だ。時代考証を経る前から、いわゆる“時代劇の言葉”を使ってセリフで書いていくのだろうか。

その疑問をぶつけてみると、「正確ではなくてもそういう言い回しで考えていかないと、セリフは生まれないと思っています。ですので、最初から“時代劇言葉”で書くんです。その時代にどういう言葉を使っていたかは、書き文字でしか残っていないので、実際にどんな会話がなされていたかは誰も知らないと思うんです。だから知らず知らずに出来上がった”時代劇言葉”みたいなもので時代劇は全部できていると思っています。今回もそういう言葉を当てはめていって、このドラマにふさわしい時代劇言葉を探していったという作業でしたね」と答えてくれた。

民放の地上波ではほとんど制作されなくなってしまった時代劇。脚本家としてこのジャンルの作品を執筆できる喜びも感じているそうだ。

「時代劇は変なリアリティにとらわれず、人間の本質を描けるんですよね。生きるために人を殺めたりとか、そういう現代劇ではできないような、むきだしの人間のエゴや情感みたいなものを時代劇では描けるし、人間の宿命とか、本能的なものがさらけ出せると思うんです。なので、そういう時代劇の面白さを、今の若い、時代劇になじみがない人たちにも面白く感じてもらえるような、そんな作品を目指さなきゃいけないなと思っています」

■個人の生き方を見つめ直さざるを得ない状況で…

「桶狭間の戦い」と言えば、戦国時代の転機ともなった時代を変えた一戦。大森氏はそれが今の時代にも重なる部分もあると話す。

「奇しくもこういった世の中になり、個人の生き方を見つめ直さざるを得ないような状況の中で、このドラマが放送されることになりました。信長の生き方というのは、『自分を貫くには、それまでの常識にとらわれていたらできない』という、自分に対する革命だったと思うんです。だからその部分は、現代人にも“自分がどう生きるべきか”みたいなことと重なると思うので、このドラマを見てそういう刺激にもなればいいなと思いますね」

最後に見どころを聞くと、「それは役者さんの魅力だと思います。特に今回は海老蔵さんの襲名記念ということで立ち上がった企画なので、やっぱり役者や芝居の魅力というものが前面に出ないとやる意味がないだろうなと思いました。信長の時代的な検証をするドラマでもないので、そこは思い切って役者を引き立てるような、そのための作劇というものを考えて作りました。ですので、ただただ登場する役者さんの魅力に酔ってもらいたいな…という思い。その一点に尽きます」と、自身は裏方に徹する謙虚な姿勢でアピールした。

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●大森寿美男
1967年生まれ、神奈川県出身。ドラマ『泥棒家族』(00年、日本テレビ)、『トトの世界~最後の野生児~』(01、NHK-BS2)で、当時史上最年少で第19回向田邦子賞を受賞。主なドラマの執筆作はNHK連続テレビ小説『てるてる家族』(03~04年)、NHK大河ドラマ『風林火山』(07年)、『悪夢ちゃん』(12年、日本テレビ)、『64(ロクヨン)』(15年、NHK)、『精霊の守り人』(16~18年、NHK)など。09年に『風が強く吹いている』で映画監督としてもデビューし、第31回ヨコハマ映画祭、および第19回日本映画批評家大賞で新人監督賞を受賞している。