歌舞伎俳優・市川海老蔵の十三代目市川團十郎白猿襲名を記念したフジテレビ系スペシャルドラマ『桶狭間~織田信長 覇王の誕生~』(26日21:00~23:32)。織田信長を戦国時代の主役に押し上げた一戦「桶狭間の戦い」にフォーカスした本格歴史エンタテインメント作品で、主演で信長を演じる海老蔵のほか、時代劇初挑戦となる広瀬すず、三上博史、中尾明慶、竹中直人、北村一輝、松田龍平、黒木瞳、佐藤浩市など、豪華キャストが名を連ねる大作となっている。
脚本を務める大森寿美男氏は、NHK大河ドラマ『風林火山』(07年)や、朝ドラ『てるてる家族』(03~04年)、『なつぞら』(19年)を手がけたほか、フジの作品では、今作と同じく河毛俊作監督とタッグを組んだ『黒部の太陽』(09年)など、現代劇、時代劇にかかわらず多くのヒット作を持つ。
そんな大森氏が、海老蔵に重ねた信長像に込めた思い、時代劇の魅力、そして“時代が変わる”という点で現代に通じる意識などを語ってくれた――。
■桶狭間に絞った方がより濃く描ける
今作は市川海老蔵の團十郎襲名記念企画として、織田信長を主人公に「桶狭間の戦い」に絞って描くという企画から始まった。そのテーマを最初に聞いたときの印象を尋ねると「昔、大河ドラマで桶狭間の合戦自体は描いたことはあったので、大体の仕掛けとか仕組みは把握していたんです。ですが、その桶狭間だけで織田信長というものを表現しきれるか不安はありました」と打ち明ける。
しかし、「桶狭間」について深く調べていくうちに、「改めて向き合ってみると、その過程にこそ信長の魅力が集約されているような気がして、桶狭間に絞った方が信長という人間をより濃く描けるのではと思いました。その後の信長は自らが作り上げた偶像のようなもので、それまでの信長こそ等身大の信長ではないかという印象を受けたんです。だから桶狭間の合戦に至るまでの信長をドラマに起こしたいという気持ちに変わりましたね」と、心配が消えていったという。
■史料にない「信長の肉声」を創造する
これまで様々な作品で何度も映像化されて織田信長だが、今回はどのように作り上げていったのだろうか。
「信長を描く人は誰でもそうだと思うんですけど、『信長公記(しんちょうこうき)』という史料があって、そこには描かれていない部分を想像したり、創作を膨らませて描いていきました。だけど『信長公記』にも謎がいっぱいあるんですね。実際に起きた合戦の動きなどは書かれてはいるんですけど、なぜそういう動きになったのか、その真意みたいなものは具体的には書かれていないので、その謎を追うような感じで、他にもいろいろ取材をしていきながら書いていきました」
また、桶狭間の現地へも赴いて取材を行い、その地形などから合戦の動きを想像することで、「1つの仮説じゃないですけれども、物語として書くべき“桶狭間の姿”みたいなものを作り上げていきました」。
史料を元にした執筆の苦労を聞くと、「史料には具体的な会話というものは書いていないんですね。だからその部分を全部想像で補っていくしかありません。それを創造していくことが時代劇を描く一番の醍醐味というか面白さでもあるんです。信長の肉声というものを考えて、『どういう言葉を発すれば、より信長がリアリティを持って立ち上がるのだろう?』と、そういう部分が一番難しかったですね」と明かした。