データに基づいた驚きのリペア! 広瀬さんが神に見える
「確かにひどい状態ですが、フレットも比較的残っていますし、トラスロッドが回ればなんとかなると思いますよ」と広瀬さん。あれ? 私の眼には「モウダメ」と出ているんですが……。不思議そうな顔をしている私を感じてか「みなさんはネックの状態を見るときどうしてます? たぶんヘッド側からのぞいて指板の端あたりを見て、う~んとうなっているんじゃないでしょうか?(はい、その通りです) 実は本当に見なくてはいけないのはフレットの頂点の並びなんです。音が出るのはフレットに弦が押さえつけられてからなので、ネックの状態も大切ですが、まずはフレットがきれいに揃っていることが大切なんですよ」と説明してくれた広瀬さん。
ポン! と音を立ててウロコが落ちました。目から。確かに今までネックがー、ネックがーと言いながらトラスロッドを回していたけど、それってなんとなく調整していただけで、フレットの高さが揃っているかなんて見たことはなかった。ネックの端の部分を見て、よし真っ直ぐ! と確認しても演奏にはあまり関係なかったわけなんだなぁ。
「その通りです。このギターの場合は少しネックを起こして(正しい順反りにして)、あとはフレットのすり合わせ(削って最適な高さにそろえる)で調整できそうですよ」と広瀬さんは話しながらトラスロッドを回していく。回し加減については先ほどのPLEKのデータがあるので適性値はすぐに出せる。
「ブリッジユニットを回して弦高も調整しましょう。高め、低めどちらがお好みですか?」と尋ねる広瀬さんに「低めでお願いします」と答える御徒町。しかし、広瀬さんがドライバーをいれてもブリッジはなかなか動かない……と突然、「バイーン(ブリッジが鳴る音)」。全員ビクッとしたが、大事ではなかったようでみんなホッと一息。40年近くギチギチにネジをしめたままだったので、簡単には回らなかったようです。
という感じで、ネックのトラスロッドで曲がりを調整し終えたPEを再度PLEKでスキャンする。間髪いれずに、データを見ながらどんどん追い込んでいく感じだ。
トラスロッドを回すだけで、これだけ改善する。それも脅威だが、それを目の当たりにすると空いた口がふさがらない状態になる。「実はPLEKの良いところはそこなんです。データで可視化するので間違いがないし、お客様にも納得していただける。このギターはきれいになりそうですが、逆に本当にダメそうな場合でも説明しやすい。ですから、経験と勘で勝負しているギター職人もPLEKを入れたがるのはそうした理由からです」と広瀬さん。納得です。
データはクラウドで管理、ワールドワイドでの共有で進化
ちなみにPLEKでスキャンされるデータは、ローカルの端末だけに保存されているわけでなく、本社があるドイツでも管理されているのだという。「世界中からのデータが集まりますから、そのデータを使って機能改善などに役立てているようです。よくアップデートもありますよ。震災のときにセンサーがちょっとズレましたが、ドイツ本国がリモートで調整してくれました」とのこと。これはまさにデジタルを使った業務効率化と一元管理をワールドワイドで実現している好例ではないですか。一子相伝かと思っていたクラフトマンの世界にもITの風が吹いている。
さて、話を戻そう。「このままでも十分ですが、さらにフレットのすり合わせをすれば、かなり改善すると思います。やりますか?」と聞く広瀬さんに、何度もうなずく御徒町。まぁ、ここまでを見ちゃうと当たり前だよね。