2011年3月11日に発生した未曾有の災害・東日本大震災から10年。マイナビニュースでは、この震災に様々な形で向き合ってきた人々や番組のキーパーソンにインタビューし、この10年、そしてこれからを考えていく。

フジテレビ系月9ドラマ『監察医 朝顔』(毎週月曜21:00~)は、上野樹里演じる主人公が東日本大震災で母を失い、遺体すら見つからないという設定で、それをめぐる父娘や祖父たちの心の葛藤を、物語の大きな柱として描いている。

何度も被災地を訪れ、作品を紡ぎあげてきた金城綾香プロデューサーに、今作に込めた思いや、役作りを超えて被災地と向き合う上野の姿などについて、話を聞いた――。

  • 時任三郎(左)と上野樹里=東北でのロケより (C)フジテレビ

    時任三郎(左)と上野樹里=東北でのロケより (C)フジテレビ

■遺体が行方不明…“無い”悲しさを描く

――原作では、主人公の母は阪神大震災で亡くなったという設定でしたが、第1シーズン(2019年放送)で、東日本大震災から8年後に舞台を置き換えられました。改めてこの狙いは何でしょうか?

私は出身が兵庫で、小学1年生で阪神大震災を経験しまして、もちろん全てではないのですが、8年経った時は街として立ち上がっていたイメージがあったんです。でも、3・11に置き換えようと思って調べたら、8年経ってもまだ立ち上がってる途中でいらっしゃると知って、津波の恐ろしさをあらためて実感しました。それをどう表現したらいいんだと思ったときに、毎回解剖するご遺体と向き合う親子にとって、最愛のお母さん・奥さんの遺体が見つかっていない、“無い”悲しさをドラマで扱ってみるのはどうかと考えました。

また、「亡くなったかどうか分からない」という“不明確”なものを、ドラマではあまり扱わない印象だったので、脚本家さんにも相談してあえてやってみることになりました。この悲しさは、私たちには到底想像が及ばないところなので、手探りではありました。

――第1シーズンで1クールを経て、現在の第2シーズンで2クールというロングランで制作されてきましたが、その間、被災地にたびたび訪れて、交流を続けていますよね。

2年にわたって何度か陸前高田市(岩手県)を訪れたり、周辺の都市にも伺ったり、第2シーズンの前には去年の1月に宮城県の海辺の都市で船を使って遺体を捜索されているチームにお話を聞いたりと、ドラマの制作にあたっていろんなところに行きました。

陸前高田は、最初に訪れてから1年、2年と経っていくと、工事現場だったところに野球場や建物がどんどんできたりして、変化を感じますね。10年という節目は、国からの支援が1段階下がってしまうというのもあるようで、急ピッチで街づくりが進められているさまを見ていると、もともと震災から10年の3月を第2シーズンの最後に迎える予定ではなかったので、不思議なめぐり合わせを感じますし、このテーマに挑戦して良かったなと思えます。

――被災地を取材されて、どのような部分をドラマに反映されたのでしょうか?

特に第1シーズンでは、遺体安置所を描きましたので、規模感やそこにどんな方がいらっしゃったのかなど、大変参考にさせていただきました。また、第1シーズンで風間(俊介)さんが「遺体安置所にいたのは自分だったのかもしれない」と話すシーンは、実際に取材した方のお言葉をそのまま使用させていただきました。

  • 制作発表会見で被災地を思い涙する上野樹里

■「本当にとんでもない女優さん」

――主演の上野樹里さんは、制作発表会見で被災地のお話をされるときに涙されるなど、向き合い方や思いが人一倍大きい印象を受けます。

周りのキャストや長く付き合ってきたスタッフに対しても、ものすごく愛を持って接してくださるので、根っこがすごく愛情深い方なんです。取材などでお会いした被災地の方のことも個人個人のことをちゃんと思いやって、取材で終わりではなく、食べ物を買って支援したり、私たちのルートとはまた違うところで関係性を続けてらっしゃったりするんですよ。仕事のためとか、ドラマのためとはまた違うベクトルを持っているんです。

ご自分にできることは何だろうと、常に考えられているような気がします。東日本大震災は、上野さんが大河ドラマ(『江~姫たちの戦国~』)の主演をやられていたときですし、私と同じように兵庫出身で阪神大震災の経験もあって、被災地の人たちのことを他人事と思わず、自分の生活や環境にちゃんと落とし込めている。それが結果的に役作りになっているので、上野さんが演じることがリアリティを持つ根っこになっていると思います。私は『グッド・ドクター』(18年)からご一緒させていただいてるんですが、本当にとんでもない女優さんとずっとお仕事ができて、ありがたいなと思いますね。

  • 上野樹里(左)と加藤柚凪 (C)フジテレビ

――朝顔の娘・つぐみを演じる加藤柚凪ちゃんは今5歳なので、東日本大震災を経験していませんが、彼女に何か説明などはされたのでしょうか?

我々制作サイドからは特にしていないですが、一緒に陸前高田にロケに行きましたので、「津波が来たから大きな壁(=防潮堤)があるんだよ」ということは、ご自身のお母さんから聞いていると思います。むしろ今の時期は、津波のことを話して怖がらせるというより、震災ということを意識させず、防潮堤の上で「海がきれいに見えるね」とか「街が新しく生まれ変わってるよ」とか「ご飯がおいしいね」というポジティブなことで現地を楽しんでもらって、「でも津波があったから、こういう壁が建ってるんだよ」ということが分かってくれればいいのかなと思うんです。

――それにしても、第1シーズンから比べてみると、どんどん成長していますよね。

最初の頃は描いてる絵もクチュっとしたものだったのが、今はひらがなが分かるようになって本を読んでいたり、おしゃべりがどんどん上達して、1年という時間でいかに子供が成長するのかを実感します。そういう柚凪ちゃんの日常から、ちょっと大人っぽいことを言っていたらそれをセリフにしてみたり、こっちがアイデアをもらって組み込んでいる感じですね。