“平成の駆け込み寺”と呼ばれた熱血和尚への密着ドキュメンタリーが、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』で『「おじさん、ありがとう」~熱血和尚が遺したもの~』と題し、27日(13:30~ ※関東ローカル)に放送される。
番組に登場するのは、非行や虐待、いじめ、薬物依存など、様々な理由から親元で暮らせなくなった子供たちを受け入れてきた寺の住職・廣中邦充さん。第二の父親のような存在で子供たちと本気で向き合い、肺がんに冒されながら最期まで手を差し伸べ続けた姿に大きな反響が集まり、この『熱血和尚』シリーズは、「第36回ATP賞」グランプリ、「2020年日本民間放送連盟賞」テレビ教養番組部門・最優秀賞、「第57回ギャラクシー賞」奨励賞、「ニューヨークフェスティバル2020」ドキュメンタリー宗教/哲学部門・銀賞&国連グローバルコミュニケーション賞・銅賞と、国内外で数々の賞を受賞した。
11年間にわたって取材した八木里美ディレクター(バンエイト)に撮影の裏側、そして今、このドキュメンタリーを放送することの意義を聞いた――。
■「心が風邪をひいてしまったんだよ」
取材を始めたのは、2007年。子供の自殺増加、モンスターペアレント、学校裏サイトといった問題が出てきた時期で、社会的な関心が高いテーマということで継続的に取材し、フジテレビの夕方ニュース番組でシリーズ企画として、3年間で12本を放送。その後、『ザ・ノンフィクション』で2回、BSフジでも特別編として放送された。
廣中さんが取材の条件として提示したのは、「子供たちと一緒に寺に泊まり込み、ありのままを伝えてほしい」ということ。
八木Dは「最初、子供たちは荒れてるだろうし、大人に不信感を持っているだろうから、どうやって関係性を紡いでいったらいいのか、すごく心配でした」というが、「実際に接してみると、素直で繊細な子供がすごく多かったんです。廣中さんはよく『この子たちは心がすごくきれいだから、家庭でのいろんなことを敏感に感じ取ってしまって、心が風邪をひいてしまったんだよ』とおっしゃっていて、本当にその通りだなと感じたのを覚えています」と振り返る。
そんな取材の中でも、寺の子供を暴行した相手に、廣中さんたちが会って話をつけに行くシーンは、見ている側も決闘が始まるのではないかと、ハラハラさせられる場面だ。相手の少年が金属バットを持って待ち構えていたこともあり、八木Dも「やっぱり怖かったですね。万が一のことがあればすぐ警察に電話できるように、ずっと携帯を手に持っていましたから」と打ち明ける。
それでも、どこか安心感があったそう。
「廣中さんは、相手方のリーダーの子も救ってあげたいと思っていたんです。放送ではカットしましたけど、名刺を渡して『何かあったら電話しておいで』と言っていました。モザイクをかけましたが、その子はとても優しい顔をしていたんですよ。だから、『大丈夫かな…』という範囲の中で、ドキドキしながら撮影していました」
■未成年の喫煙シーンもそのまま放送
「ありのままを伝えてほしい」という廣中さんの希望も踏まえ、番組に登場する子供たちには、ほとんどモザイクがかけられていない。子供の将来に関わることでもあり、八木Dも悩んだそうだが、「いかに問題が深刻かというのをちゃんと描かないと、なぜ真剣に怒るのか、叱るのかを視聴者に伝えることができないと考えました」と決断。「テレビ的に画になる派手な部分だけを都合よく使うのはやめようと思い、彼らの成長をしっかり見せることを至上命題にしていました」と心がけた。
それを象徴するのは、廣中さんの留守中に未成年である子供の1人がタバコを吸う姿を、BSフジで特別編を放送する際に、そのまま流したことだ。
「実は、1回カメラマンがタバコを取り上げたんですが、それでもまた火をつけるので、そのまま撮影したんです。お寺に批判が行ってしまうという心配もあったのですが、その子が抱えている闇の部分がよく出ている場面で、意味のあるシーンなので、流すことにしました」