◆SAM(AMD Smart Memory Access)の効果(グラフ122~127)

さて、ここまでのテストは常にSAM(AMD Smart Memory Access)をOnにして実施してきた。SAMの話はこちらでちょっと触れているが、もう少し説明をしたい。

そもそもPCI Expressの場合、デバイス側のメモリはデフォルトだと256MBまでの範囲でホスト(つまりCPUのメモリ空間)に張り付ける事が出来た。これがMemory I/O空間というものだが、この256MBという値は元々はPCIの標準化の際に決まった数値で、それをPCI Expressがそのまま引き継いだ形だ。このMemory I/O空間を管理しているのがPCI ExpressのConfiguration Space(管理用レジスタなどが置かれたメモリ空間)の中にあるBAR(Base Address Register)である。さて、PCIとか初期のPCI Expressでは、256MBで別に問題は無かった。当時はビデオカードにそんな大量のメモリが搭載されることはなかったし、CPU自身も32bitで使われる方が多かったから、256MBあれば十分だった。ところがCPUが64bitに移行するという頃になって、「BARが256MB対応のままでいいのか?」という議論が出てきた。最終的にPCI Express 2.0に対するECN(Engineering Change Notice)として、Resizable BAR Capabilityが2008年1月にリリースされ、2008年4月に承認。2009年4月にリリースされたPCI Express Base Specification Revision 2.1に取り込まれた。これはBARのサイズを1MB~512GBまで変更できるというものである。ただしこれは必須ではなくオプション扱いとなっている。もっともこれ、ハードウェアの対応だけではなくOSやドライバの対応も必須である。幸いOSに関してはWDDM v2でこれに対応した事を2017年4月にMicrosoftが表明している。なので後はドライバが対応すれば、最大512GBまでのメモリを直接ホストのメモリ空間に張り付ける事が可能になる訳だ。

話をSAMに戻すと、SAMはこのResizable BAR Addressを利用して、16GBのメモリを直接CPUのMemory I/O空間に張り付ける技法である。これによる性能向上は5~11%というのがAMDの説明であるが、さて実際にはどうか? という話である。

今回比較対象としては3DMark、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク、Metro Exodus、Shadow of the Tomb Raiderの4つを選んでみた。ちなみにMetro ExodusとShadow of the Tomb Raiderについては、DXRT無効/有効の両方で試してみた。

ということで結果を。さすがにここでもう一度フレームレート変動とかまで示すとグラフが更に増えるので、平均フレームレートないし代表値のみの比較である。

  • グラフ122

まずグラフ122が3DMark。今回はOverallのみである。はっきり言って、SAMを無効にした方が性能が伸びるという状況だった。性能差は主にGraphics Testの結果に起因しており、Physics/CPU Testの結果は1%以内の差で、誤差の範囲といったところ。特にWildLifeなどの負荷が軽いベンチでのスコア向上は著しい。

  • グラフ123

次はFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ123)だ。実践がSAM有効、破線がSAM無効であるが、SAMを有効にすると確かにわずかにスコアが上がっているものの、むしろ下がっているものもあるため、3つのビデオカードの平均を取ったら「差が無し」になってしまった。

  • グラフ124

  • グラフ125

Metro Exodus(グラフ124・125)も非常に微妙なところである。DXRT無効(グラフ124)だと、4Kでは性能が改善している一方2Kではむしろ下がっている。DXRT有効(グラフ125)だと、むしろ全般的にフレームレートが僅かながら落ちている始末。3枚のビデオカードの、4つの解像度における改善具合の平均値をとると、DXRT無効の場合は2.23%のフレームレート向上だが、DXRT有効の場合は0.73%のフレームレート下落という事になっており、これを効果があると言ってよいのか良く判らない。

  • グラフ126

  • グラフ127

今回のテストで唯一改善らしい改善が見られたのがShadow of the Tomb Raiderである。DXRT無効(グラフ126)の場合は最大で5.5%、平均で3.5%のフレームレート向上。DXRT有効(グラフ127)の場合は最大で4.7%、平均で3.0%のフレームレート向上の効果が得られた。AMDの示す例に比べるとちょっと少ない気がするが、このあたりは当然アプリケーションによって差が出るところだから、まぁ何もしないでこれが得られただけでも良しとすべきなのだろう。

◆消費電力(グラフ128~132)

最後にこちらを。まずグラフ128~132が順に

  • 3DMark FireStrikeのDemo
  • FF15 Bench(2K、高品質、フルスクリーン)
  • Metro Exodus(2K、Ultra)
  • Shadow of the Tomb Raider(2K・Highest)

のそれぞれの最初から最後までの消費電力変動を測定したものだ。Metro ExodusとShadow of the Tomb Raiderでは、Ray Tracing有効/無効の両方を測定している。

  • グラフ128

  • グラフ129

  • グラフ130

  • グラフ131

  • グラフ132

この消費電力変動を見て判るのが

  • GeForce RTX 3090の消費電力が飛び抜けている
  • Radeon RX 6900 XTの消費電力がRadeon RX 6800 XTと殆ど変わらない

事だ。GeForce RTX 3090に関してはOCモデルという事もあるが、例えばMetro Exodus(グラフ130)だと軽く620Wを超えており、GeForce RTX 3080比で70W近い消費電力アップである。どうもMSIはかなり攻めた構成にしており、その分消費電力が上がるのは仕方ないのかもしれない(まぁその分、特に4Kでは最高速な事が多かったが)。一方のRadeon RX 6900 XTは、逆に「何でこんなに消費電力が少ないの?」という感じだ。何しろGeForce RTX 3080よりも低いのだから。

このあたりは平均値(グラフ132)を見ると、より判りやすい。Radeon RX 6900 XTは、Radeon RX 6800 XT比で数W(下手をすると1W未満)しか消費電力が増えていない。それでいて性能が改善しているのだから、これは大したものだという気もする。

考察 - 確かに最高性能のRadeon、ただ実売価格によっては他の候補も

ということで今回は更にグラフの枚数が増えていて申し訳ないが、Radeon RX 6900 XTの大まかな性能は見えたと思う。筆者の率直な評価は「微妙」である。

なんで微妙か? このクラスのビデオカードだと主戦場は4Kになるが、その4Kでは性能がRadeon RX 6800 XTと大差ないからだ。理由はInfinityCacheにある。思うに現状の128MBという容量は、Radeon RX 6800 XTだと丁度手頃なサイズであるが、Radeon RX 6900 XTだとちょっと不足気味になる。で、InfinityCacheがあふれた場合はGDDR6でのアクセスになり、ここがボトルネックになる。このあたりは先ほどSandra 20/20の考察の所で述べた通りだ。64CU/128MBあたりがベストバランスだとしたら、Radeon RX 6900 XTではInfinityCacheの容量を160MBあたりに増やす必要があるという計算になるが、勿論そんなことは不可能である。であれば、無理にRadeon RX 6900 XTでなくてもRadeon RX 6800 XTでいいのでは? という判断になる。少なくとも4Kでの絶対性能が欲しいならGeForce RTX 3090にはまだ敵わないし、そこそこの性能でいいならRadeon RX 6800 XTでも多分満足できるだろう。

ここで判断のポイントとなるのは価格である。もっとも冒頭で愚痴った通り、いまだにAMDから推定市販価格が伝えられていないので想像するしかないが、こちらにもある様に、先行したGPUでは

米国価格 秋葉原価格
Radeon RX 6800 $579 \77,000~
Radeon RX 6800 XT $649 \88,000~

なので、換算レートは133~135円/$程度になるだろう。Radeon RX 6900 XTは数も少ないので、更に価格を上げて例えば138円/$とかになるとすると、$999のRadeon RX 6900 XTの実売価格は\138,000位になる計算だ。さて、果たしてこのカードにそれだけの価値があると見るかどうかだ。

個人的な感想で言えば、これが秋葉原の店頭価格で10万を切るなら「即買い」だし、12万を切るなら「まぁ納得できる」範囲だが、これを超えたらちょっと「微妙」にならざるを得ない。まぁGeForce RTX 3090カードが軒並み20万円以上で販売されている現状を考えると、仮に\138,000だとしても買いなのかもしれないが、このカードでしかまとも動かない上に何が何でも遊びたいゲームなどがうっかり出てくるでもしない限りは、筆者ならRadeon RX 6800 XTを選ぶだろう。まずは実際の価格を見てからだろうが、想像通りならばなんとも悩ましいことになるだろう。