この事実を伝える手段として選んだのが、「上映会」。2012年に映画『放射線を浴びたX年後』を製作し、これまでも日本国内やアメリカで実施してきた。テレビ局に勤務し、一斉に多くの人に伝えることができる放送という手段がありながら上映会にこだわる理由は、“語りかけ”の大切さだという。
会場などそれぞれのケースにもよるが、時には80分の上映後に2時間にわたって伊東Dが語りかけ、それに対して観客が質問や意見をぶつけることもあるという。そのコミュニケーションを通じ、たしかな熱量が生まれることに、手応えを感じていた。
「僕はアナログ回帰というのが、今すごく大事だと思っています。デジタルって効率的に合理的に伝える力があると思うんですけど、アナログにはもっと人と人が深く関わるところの強さがある。そういう意味で、上映会という形にすると、1つのテーマに対してみんなが同じ場に集って話し合うことで連帯感ができて、それが大きなアクションにつながると思うんです」
■クラウドファンディングは「身につまされる思い」
一方で、クラウドファンディングという形で出資を募ることには、「これはもう本当に心苦しいです。テレビの仕事は、お金があるというところからのスタートなので、クラウドファンディングを始めてから、本当に身につまされる思いなんです。中には、新聞配達までして家族を養ってる人が5,000円を出してくれて…」と、葛藤を打ち明ける。
しかし、出資することでこのプロジェクトに“参加”する意識を持つことも、前述の連帯感につながることになる。
「クラウドファンディングを始めてから、本当にいろんな動きが始まっているのを感じています。経済界の人たちも動いてくださって、大企業で経営に関わってる人が国連の方を紹介してくれたり、どんどんつながっていくのを実感しているんです。今までの上映会だけではそういうことはなかったので、これがクラウドファンディングの良さだと思いました」
そうした新たなつながりから、自身の活動に新たな気付きもあったという。
「経済の専門家の方に『伊東さんのやっていることは、経済と相反するものではない』と言われたんです。僕は、何かを糾弾しようという気持ちがどこかにあったんですけど、『最終的には22世紀にどんな地球を自分たちの子孫に持たせてあげられるか』という考えを話したら、『それはどの企業のトップもみんな考えています。だからすごく親和性があるし、一緒にやっていける話ですよ』と。それは、僕としても大きく学んだことですね」といい、「だからこの運動が本当にアメリカでムーブメントになり始めたら、今度は政治的な動きも大きく加速していくんじゃないかと思っています」と、期待を膨らませる。
また、「制作者として、より良い作品を作りたいという思いはもちろんあるんですが、そんなことは微々たるもので、とにかくたくさんの人にこの事実を知ってもらえたら、僕の役目は果たせたことになると思います。そして、世界中のジャーナリストや研究者たちが、このテーマについて考えてもらえるようなネットワークを作りたいんです。それによって、最終的に政治・経済が関心を向けて動き出してくれたら、ものすごくうれしいですね」と、展望を語ってくれた。