◆RMMT 1.1(グラフ72~74)
RMMT 1.1
Rightmark.org
http://cpu.rightmark.org/products/rmma.shtml
Sandra及びRMMAを利用したテストは今回は時間の関係で見送り(データは取ってあるので、こちらは追ってDeep Dive編でご紹介する)させて頂くが、RMMTの結果だけご紹介する。ちなみにRMMT、今まではThreadあたり40MBでテストを行っていたが、L3が32MBもあるとかなりの部分がこれに入ってしまう、ということで今回からはThreadあたり80MBのメモリを利用したテストにしている。
まずReadがグラフ72だが、4 Threadあたりまではまぁ判らなくもないが、5 Thread以上でRyzen 9 3900XTとRyzen 9 5900Xが性能を上げているのは、やはり2つのCCDからCIoDにアクセスをする方が、フルにCIoDの性能を引き出せる、という事なのだろうか? また1 Threadの時の性能を見ると、Core i9-10900Kが24GB/sec程度、Ryzen 3000シリーズが概ね26GB/sec程度なのにRyzen 5000シリーズは33GB/sec程度まで帯域を広げており、Zen 3でLoad/Storeユニットを強化した効果が表れている様に思う。これはWrite(グラフ73)も同じで、特に1~4 Threadの間、Ryzen 300シリーズは15~19GB/sec程度であるが、Ryzen 5000シリーズはCore i9-10900Kと同じく21GB/sec近辺まで帯域が広げられている。少なくともコアの側のLoad/Storeユニットは間違いなく強化されている、ということがここから見て取れる。
最後に今回から、Read/Writeをミックスで行ったらどうか? をちょっと試してみた。4 Thread Read/4 Thread Writeという構成である。結果はグラフ74の通り。何でRyzen 7 5800Xが落ち込んでいるのかが良くわからない(とはいっても、Core i9-10900Kと同等の帯域は確保される)が、Ryzen系が比較的良い結果になることが分かった。このあたりはMemory Controllerの作り込み次第の部分だが、メモリアクセスでIntelにビハインドを負っていた、というAMDのイメージはもう過去のものになったとしても良いかもしれない(良い、と断言するのはDeep Diveでもう少し確認した後にしたい)。
◆消費電力(グラフ75~80)
最後に消費電力について。まずSandra 20/20のDhrystone/Whetstoneの結果(グラフ75)である。
以前こちらでも触れたが、Comet LakeというかCore i9-10900KではPL1(つまりTDP)が125WながらPL2は250Wで、PL1 Tau(PL2を有効にし続ける時間)が56秒となっている。ここでCore i9-10900KはまさにPL2をフルに活用する感じで最初の数十秒(途中なんどか動作周波数が落ちているので、連続56秒には達していないみたいだ)は高いが、その後は230W程度に収まっている。Ryzen系はそもそもそこまで上がる訳ではないが、定格こそ105Wながら実質的にそこまで使い切っていないRyzen 7 3800XTが180W台なのにたいし、他の3製品がいずれも220~230Wあたりに集中しているのが判る。要するにRyzen 7 5800Xは、TDP枠一杯まで性能を上げているっぽいということだ。
グラフ76はCineBenchで、All ThreadとOne Threadの両方が終わるまでを測定している。最初がAll Threadなので、当然ここの消費電力が一番高い訳である。ただRyzen系は250W程度で収まっているのに、Core i9-10900Kは340Wほどまで上がっているのが判る。厳密に計算した訳ではないが、これも「さもありなん」と思わせる結果である。
グラフ77はTMPGEnc Mastering Works 7における4 Stream同時エンコード中の消費電力である。Ryzen系は最初の28秒程度、若干(75W程度)消費電力が増え、その後提供状態になるが、Core i9-10900Kはまず最初の28秒は150W以上消費電力が跳ね上がり、その後100W程度に抑えて更に28秒経過後に、250W弱に落ちるというちょっと複雑な振る舞いを見せる。
またグラフ76ではRyzen 7 5800XとRyzen 9 5900Xの消費電力が異なっているが、グラフ77ではほぼ同じあたりになっているあたり、全スレッドが稼働するようなケースでは消費電力一定を目指して動作周波数の調整を細かく行っているようだ。
グラフ78は3DMark FireStrikeのDemoの結果だが、大きな差ではないものの、意外にもここではCore i9-10900Kが一番低い(60~180秒あたり)数値になっている。また2ダイ構成のRyzen 9がちょっと高めに推移している、という傾向も面白い。
なかなか熾烈だったのが、Final Fantasy XV(2K・高品質)の実施中の消費電力(グラフ79)である。CPUをそれなりに使うということもあってRyzen系もピークで560W近くまで行き、Core i9-10900Kは600Wを複数回超えている。3D系ゲームであっても、負荷が掛かるとそれなりということか。
さてこの5つのグラフから、それぞれ平均値を取ったのがグラフ80となる。こうしてみると、Ryzen 5000シリーズは概ねRyzen 3000シリーズに近い消費電力枠に収まっている事が判る。面白いのはやはりRyzen 7 5800Xだろうか。ダイが一つにも関わらず、ほぼ105WというTDP枠を使い切っている事が判る。ということは、特に全コアをフル稼働させるシーンでは、Ryzen 9 5900Xよりも平均的に高い動作周波数で稼働しているものと想像される。にも拘わらず性能という意味ではRyzen 9 5900Xの方が上なのは、むしろ動作周波数を下げてコア数を増やした方が絶対性能という意味では上になるからだ。
ただ、動作周波数がモロに効くようなアプリケーションでは、むしろRyzen 7 5800Xの方が性能が上がりやすいということになる。冒頭のPCMark 10などはこの類なのではないかと思う。その意味では、(どの程度居るのかは分からないが)Ryzen 7 3800X/3800XT→Ryzen 7 5800Xというアップグレードパスを考慮しているユーザーはちょっと注意が必要だろう。
考察
ということでまずはRyzen 7 5800XとRyzen 9 5900Xのレビューをお届けした。私物でRyzen 7 3800Xを用意し、それとは別にレビュー用にRyzen 9 3900Xを多用している筆者にとっても、どの程度性能が上がるかの見極めが出来たという意味では大変に意味のあるテストであり、確かにAMDのいうIPC 2割向上を確認できたことになる。
そういう意味では、これからAMDのプロセッサを、というユーザーにはもうRyzen 3000シリーズではなくRyzen 5000シリーズの導入を強くお勧めする。価格も殆ど変わらないのに、間違いなく最高速プロセッサとして差し支えない性能を実現しているからだ。
難しいのは既存のRyzen 3000シリーズのユーザーである。特に今回レビューしたRyzen 5800X/5900Xは、お値段もそれなりである。例えばRyzen 7 3800X→Ryzen 5800X、性能という意味では確かに2割くらいは上がるのだが、そのためにもう一度5万円余りを支払えるか? というと非常に微妙なところにある。もっともこのあと、Radeon RX 6000と組み合わせてSmart Memory Accessなどでガンと性能が上がるような事があれば、この値段もあるいは正当化できるのかもしれないが。下取りサービスというかアップグレードサービスがあればいいのに、とふと思ってしまった。
そして、これからPCを組むのにIntelかAMDかを迷っているユーザーに対しては、「今組むならAMD」とお勧めしたい。Intelに関しては、恐らく来年3月あたりに出るRocket Lakeが本命という事になるが、現在販売されているIntel 400シリーズのマザーボードではRocket Lakeのフル性能を発揮するのは難しい(というか、無理)であろう(一応互換性はある、という話は非公式には語られているが、公式には言及すらない)。来年まで待てるユーザーは、Rocket Lakeの登場後に見極めをすればいいが、そこまで待てないユーザーであれば現時点ではRyzen 5000シリーズの方が良いチョイスである、と言える。
この後、機材が入手でき次第、追加でRyzen 9 5950XとRyzen 5 3600Xを入れた構成のテスト結果もお届けしたい。また、内部構造の解説を含めたDeep Dive編は、別途お届けする予定である。