ニューラルエンジンが本気を出しはじめた、カメラの進化

今どき、スマホで撮影すればだいたいのモノはキレイに写すことができます。じゃあどうキレイなの? というのが違いを見るポイントになっています。iPhone 12 Proの場合、撮りたいと思ったものが想像以上に撮れていることに驚かされます。素人が一眼レフを使うよりも、むしろ肉眼で見るよりも物事を詳細に捉え、目の前の事象を表現してくれるのです。それは暗い場所や夜景など、従来カメラが苦手としてきた環境でよりハッキリします。

  • 暗い中でもノイズ感なく、クリアできめ細かなテクスチャ。無理に明るくせず、暗さの中に豊かな色幅があります

  • 夜景は夜の暗さとライトアップの明るさをどちらも表現。月の明るさも街灯の明るさも破綻なく描いています

動画はさらにすごいことになっていて、明暗の幅、色味の幅ともに映画クラスの「Dolby Vision対応HDR」で撮影することができます。Dolby Visionは、これまでカメラもグレーディング作業(色味を正しく表現するための撮影後の処理)も専用機材とプロの腕が必要だった規格ですが、それがiPhone 1台で済んでしまうというわけです。

ただ、せっかく現物が目の前にあるかのように撮影できた動画も、今のところ単純に「写真」アプリからYouTubeやSNSなどに送るとそのクオリティが維持されず、普通の見栄えになってしまうのが残念なところ。HDRのまま見てもらうためには、プロ向け編集ソフトを使って適切な形でエクスポートしなくてはなりません。iOSなのか各アプリなのかその両方なのかわかりませんが、ぜひ対応をお願いしたいところです。

元の画質でiPhone以外にシェアするのはハードルが高め。YouTubeにHDR動画をそのままアップロードすると、むしろくすんで見える場合も

  • シェアを前提にする場合は「設定」の「カメラ」→「ビデオ撮影」→「HDRビデオ」をオフにしておいた方が、撮影時とのギャップが少なくなります

カメラ性能3つの要素と、RAW対応への期待

スマートフォンのカメラの性能を決めるのは、光を捉える「レンズ」、その光を電気信号に変換する「画像センサー」、その信号を画像に変換する「画像処理エンジン」という3つの要素です。

iPhone 12 Proでは広角カメラのレンズが絞り値f/1.8からf/1.6になり、より多くの光を取り込めるようになりました。暗い場所に強く、よりノイズの少ない画像を撮影できます。

  • 明かりが直接当たらない場所で、ナイトモードなしでもかなりキレイに撮れる広角カメラ。LiDERスキャナ搭載で暗い場所でもすぐピントが合います

さらに、チップの進化によって画像処理能力が大幅に強化されたことが大きく影響しています。逆光や明暗差の大きな場所でも白飛びや黒つぶれせず、繊細な質感を表現できる処理は、チップの中にあるNeural Engineという機械学習に強い領域が担っており、この部分の性能がiPhone 11 Proよりも大幅に向上しているのです。これをものすごい速さで連続して行うことで実現しているのが、Dolby Vision対応の動画撮影というわけです。

  • 動画撮影時のグレーディングのイメージ。1コマごとにリアルタイムで処理し描画できるのは、チップの進化あってこそ

それだけに、写真や動画を連続して撮影していると本体がかなり熱くなってきます。さらに動画は幅広い階調表現のために輝度を最大限に使うこともあって、バッテリーの消費が早くなります。映像作品の制作など、長時間撮影する場合には熱対策・バッテリー対策に注意が必要です。

と、ここまでカメラの話をしましたが、iPhone 12 Proのカメラはまだ本気を出していません。年内の対応が発表されている「Apple ProRAW」です。RAW形式とは、先ほどの説明でいう「画像処理エンジン」による処理が入る前の生素材の意味で、一眼レフなどの高級カメラでプロやセミプロが使っています。撮影後の作業がクオリティを左右するプロの世界で、いよいよiPhoneのカメラが本格的に活用される環境が整うことになります。

カメラ愛好家にとっては一番の注目ポイントといえるRAW対応。Apple ProRAWと独自の名前をつけてくるからには、それなりに機械学習の利点も活用してくるものと期待されます。ただし、RAWは一般的に非常にファイルサイズが大きいので、iPhoneやiCloudのストレージにどう影響するのか気になるところです。