カツオ氏ら放送作家は、テレビディレクターたちに先駆けてYouTubeに進出してきた。その背景には、「放送作家業界って、“経験豊富”で“面白い”上の世代の方々がたくさんいるので、層が厚い、厚過ぎる。僕はありがたいことに、たくさんの番組をやらせてもらっているほうですが、そうやって上がつかえてくると、もっと若い世代からすると『番組のメイン作家ができる』なんてことはなかなかないので、『じゃあこっち(YouTube)に行けばいいじゃん』となってくる。YouTubeなら同世代の好きな芸人さんとタッグを組むこともできますし、自分たち中心でネタや企画を考えられるのが、やっぱり楽しいですから」…という構造があるそうだ。
それは、お笑い芸人界、ひいては芸能界でも当てはまり、「番組のオーディションは、手練(てだれ)のスタッフさんたちのセンスや好み、番組で求めているテイストに合っているかで演者さんが選ばれますが、YouTubeだと自分たちのやりたいことを“テレビマンの審査無く”出せて、面白いことをやっていればお客さんがついてくる。その方が楽しいし、クリエイターとしての精神衛生上もやっぱり良い」というメリットがある。
さらに、「そのYouTubeが話題になったら、今度はテレビの人たちが食いついてくる流れもできてきました。今で言うと、土佐兄弟さんとか、丸山礼さんとか、ワタナベエンターテインメントの芸人さんが強いですし、吉本(興業)だったらニューヨークさんとか、ガーリィレコードさんとか、そんな感じですよね。特に若者人気がある新しい人材を、今のテレビは必要としていますし」と、結果として番組に出られるルートが開拓された。
これを象徴する存在が、今やテレビで飛ぶ鳥を落とす勢いのフワちゃんだ。
「僕はワタナベエンターテインメント所属のAマッソとライブを一緒にやってたとき、フワちゃんがまだワタナベに所属してた頃に会ったことがあるんですが、当時からあのテンションなので速攻で売れると思ったんです。でも、次に会ったら事務所やめてて(笑)。そんな最中にフワちゃんは(放送作家の)長崎周成くんと会ってYouTuberになっていくんですけど、あっという間に売れていきましたね」
そんなフワちゃんを、カツオ氏は「革命を起こした」と評する。
「今までのYouTuberって、テレビに出ると『お金のことを聞かれる』し、『いつも自分の動画の中で完結していたのに対して、いろんな人の手が加わってどう映るか分からない』し、『“あの人テレビの方に行っちゃったよ”っていうファンの声も気になる』し…というのもあって、あまりテレビには出てくれないという傾向があったと思うんです。でも、フワちゃんは、それを全く関係なくガンガンテレビに出ていった。その結果、登録者数もすごく増えてスターになった。そうなったときにいろんなYouTuberたちがざわついたはずなんです。『テレビ、悪くないな』『テレビに出たら、もっと有名になれるじゃん』って。YouTuberでもなんでも、外に向けて情報を発信する人の一番の最終目標って、(お金よりも)やっぱり有名人になりたいというのが基本じゃないですか。YouTubeの中で有名になってもどこか閉塞感、つまり国民認知度に限界がある状況で、フワちゃんの爆発を見て、その『有名になりたい』目標がかなうかもしれない…と思うようになって、テレビに出やすくなってきているのを感じます」
■テレビとYouTubeの垣根が壊された
このフワちゃんの快進撃によって、「確実にあったテレビとYouTubeの垣根が壊されたと思います」と実感。最近では、YouTuberのエミリンが『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ)に出演したり、水溜りボンドが『オールナイトニッポン0』(ニッポン放送)や『水溜りボンドの○○行くってよ』(tvk)でレギュラー番組が決まったりと、本腰を入れてテレビ・ラジオに進出し始めた。
「今まで、YouTuberってある種、芸能界から見たら別枠の人種、別世界の人だと思われていた部分もあったと思うのですが、それが、芸人になるか、役者になるか、グラビアアイドルになるか…と同じ並びでYouTuberという芸能人ジャンルになったと思います。芸能界とYouTube界が、完全に合致しましたよね」と捉えた上で、前述の芸能人やテレビディレクターの進出も相まって「これからすごいYouTube戦国時代になっていくのではないかと思います。っていうか、もうなってます」と、今後の潮流に目を向ける。