iPhone 12シリーズが今買っても大丈夫そうな安心を提供する新製品に仕上がっているのに対して、イベントで発表されたもう1つの新製品スマートスピーカー「HomePod mini」はアーリーアダプターの心をくすぐるような製品だ。プレゼンテーションを見た後、家の各所にHomePod miniを置いてみたいと思った。だからといって、家族に相談したら「そこに投資するならAmazonのEchoか、GoogleのNestでしょ」という反応が返ってくるのは明らか。だが、しかし……だ。

Appleの他の"mini"を冠する製品と同様、HomePod miniは「高品質なオーディオ」「インテリジェントアシスタント」「スマートホームコントロール」といった「HomePod」のコア機能を備えている。

  • 高さ84.3センチ、幅97.6センチとコンパクトな本体にHomePodの体験を凝縮した「HomePod mini」

まず気になるのはオーディオ品質だが、SoCはApple Watchに採用されている「S5」だ。HomePodはiPhoneやiPadに使われている「A8」なのでダウングレードに思うかもしれないが、A8にはないNeural EngineをS5は備える。それによってコンピューテーショナルオーディオに対応する。再生している音楽の特性を解析し、あらゆる音声においてバランスのよいサウンドになるようにリアルタイムで処理する。Appleは「360度に広がる豊かなオーディオで部屋全体を包み、驚くような音を響かせる」としている。スピーカー構成の違いからHomePodと同品質は望めないとしても、期待できそうだ。

価格はイベント前にあった「200ドル以下」や「149ドル」という予想を大きく下回る「99ドル」。299ドル(登場時は349ドル)という価格で苦戦するHomePodに比べると、導入のハードルが低い。そして「簡単」「連携」「安心」をポイントとして挙げた。

例えば、1つの部屋に2台のHomePod miniを置くだけで簡単にステレオペアとして利用できるという。「他のスマートスピーカーでも、それできるから…」という声が聞こえてきそうだが、手元にある競合スピーカーでステレオペアを試したところ、完了まで6ステップかかった。しかも、分かりにくい。

  • HomePod miniは同じ部屋に2つ置くだけで簡単にステレオペアを構築可能

「ごはんだよ〜」というような音声メッセージを他の部屋に届ける「インターコム」という機能を利用できるようになる。「それもすでにある」という声が聞こえてきそうだが、Appleのインターコムはスマートホーム機器間だけではなく、iPhoneやiPad、AirPods、Apple Watchでも利用できる。例えば、HomePodがない部屋にいても、AirPodsを装着していたら「ごはんだよ〜」が送られるから、メッセージを聞き逃さない。インターコムだけではなく、他の機能やサービスについても、Apple製品同士が広く連携するように設計されている。

  • Appleデバイスの連携例:HomePod miniでSiriに近くのスーパーの閉店時間を聞き、車に乗ってCarPlayをオンにすると、Siriの提案でスーパーまでの経路が表示される

  • スマートホーム機器だけではなく、iPhoneやiPad、AirPodsなどApple製品が広く連携するから、全ての部屋にスマートスピーカーを置かなくても、デバイス連携によって家全体をカバーできるスマートホーム環境を構築できる

HomePodには、iPhoneを近づけるだけで聴いている音楽の再生をHomePodに引き継がせる「Handoff」という機能がある。すごく便利な機能なのだが、iPhoneを近づけた時の認識が遅いという欠点がある。それがHomePod miniでは、年内のアップデートでU1チップを搭載したiPhoneを高精度に認識するようになる。

  • iPhoneを近づけるだけで、HomePod miniとの間でスムースに音楽再生を移動させられる「Handoff」、年内にU1チップに対応

Handoffはすでにある機能の向上に過ぎない。だが、HomePod miniでU1チップを活用できるようになる意義は大きい。U1チップはUWB (超広帯域)無線システムを使って、高精度の測位・測距を可能にする。Appleは昨年のiPhone 11シリーズ、今年のApple Watch Series 6、iPhone 12シリーズと、着々とU1搭載デバイスを増やしている。そして、HomePod miniが初の常に電源に接続したU1チップ搭載デバイスになり、それによって屋内のデバイス認識が向上する。

家庭には、iPhoneやApple Watchのような個人デバイス、iPadやMacのように共有で使われることもあるデバイス、Apple TVやHomePodのように家族で共有するデバイスなど、様々に使われるデバイスが存在する。そうしたデバイスをスムーズに連携させ、プライバシーを保護しながら適切に情報をやり取りするのは容易ではない。人がどこにいるのか、それが誰なのか、プライバシーを守るべきか、全員で利用できるようにするべきか、そうした複雑な制御をスムーズかつシンプルに実現しなければならない。

HomePodでは声認識で発話者を聞き分けるが、UWBによって位置を正確に把握できようになれば、発話者の特定に活かせ、それによって発話者のリクエストにより手厚く対応したり、プロアクティブに応えられるようになる。これまでWi-FiやBluetoothを用いてきた位置が関わる機能の体験がUWBで向上する。Handoffに続いて、これから様々なソリューションが出てくると思われる。例えば、1〜2年ほど前からAppleがAirTagsと呼ばれるスマートタグを開発しているというウワサが広がっているが、U1チップを活かせる環境が整ってきたことで、AirTagsがいよいよ登場するのではないかという期待が高まる。