2012年に「iPhone 5」で4G LTEに対応した際に、AppleはキーノートでLTEについてわずか3分しか語らなかった。iPhoneはLTEの普及に大きく貢献したが、当時はiPhoneがサポートしたらすぐにiPhoneユーザーが4Gを体験できる環境が整っていたのだ。対して今回は、イベントのキャッチコピーを「Hi, Speed」とし、イベントでは5Gに長い時間を割き、携帯キャリア大手VerizonのHans Vestberg氏(CEO)がゲストとして登場した。

  • 5G対応で「699ドルから」という価格に拍手が送られたが、キャリアが提供する30ドルのアクティベーション割引きを含む価格だった

このVestberg氏の登場は、ライブで見ていた人達の不評を買った。通信キャリアのスピーチはAppleのイベントを退屈にするものでしかないし、全機種5G対応でグローバル展開するのに米国の1キャリアだけ登場するのは偏りがある。Verizonはミリ波の5Gサービスに力を注いでおり、今回AppleはiPhone 12シリーズで米国のみミリ波も利用できるようにした。さらにiPhoneの価格発表が不評に輪をかけた。イベントでは、iPhone 12が「799ドルから」、iPhone 12 miniは「699ドルから」と発表。700ドルを下回る価格からのスタートに、イベントを見ていた人達は沸いた。しかし、その価格にはVerizonとAT&Tが提供する30ドルの特別値引きが含まれていた。実際にはそれぞれ「829ドルから」と「729ドルから」であり、それをイベントではっきりと言わなかったAppleとVerizonに人々はすっきりしないものを感じた。

  • iPhoneの対応で「5Gが現実になった」とVerizon CEOのHans Vestberg氏

一方で、Verizonの登場に、初代iPhoneの時のAT&Tとのパートナーシップを思い出したという人もいる。

2007年当時のiPhoneは強大な携帯産業にパソコン産業から挑戦する異端児でしかなかったが、AT&TがAppleとパートナーシップを結び、端末にキャリアのロゴを入れず、データ通信を安心して行えるシンプルなサービスプランを用意。それまでの携帯業界の常識を打ち破るサービスで、Appleと共にスマートフォン市場誕生の礎を築いた。

イベントでCook氏は、Appleがハードウェアとソフトウェアのシームレスな統合によって優れた体験を生み出しているのと同じように、通信キャリアパートナーとのコラボレーションをiPhoneの革新につなげてきたと述べていた。

米国ではT-MobileとSprintが合併して4大キャリアが3大キャリアになり、キャリア間の競争が激化している。Verizonはミリ波から5Gサービスを展開しているように、独自性で5G時代の競争を勝ち抜こうとしている。その姿は初代iPhoneの頃のAT&Tに似ている。5Gの可能性はスマートフォンだけではなく、これからモバイルノートPC、スマート家電、ウェアラブル、自動車など幅広いカテゴリーに広がっていく。13年前のAppleとAT&Tがそうであったように、5G時代のiPhone、そして将来のAppleのハードウェアを実現する上で、携帯キャリアとのコラボレーションが欠かせない。