次のセッションでは「MVNOの音声料金が安くなるって本当? -「指定設備卸の適正性検証」とは何か」と題し、同社の佐々木太志氏が、MVNOの音声通話の値下げや定額サービスの可能性に関して、どのような状況になっているかを解説した。
MVNOの音声通話については、データ通信と比べて、通話し放題プランがMNO(キャリア)と比べて特に安くなるといったことが少ない。これは、MNOがMVNOにネットワーク網を貸し出す際に、データ通信部分は使用料金が電気通信事業法で定められているのに対し、音声通話や国際ローミングについてはその規律がないためだ。
MVNO各社はキャリアのような定額音声サービスを実現するために、音声通話の卸金額についても見直しを要求している。代表的な動きとしては、独自にNTTドコモとの交渉が決裂し、総務大臣裁定を受けた日本通信の例が挙げられるだろう。
また、MVNOによってはIIJmioの「みおふぉん」のように、電話番号の前に4桁の番号(プリフィックス)を付けたり、専用の通話アプリを使って通話することで電話料金が安くなるサービスを提供している場合がある。ところで、なぜ専用アプリやプレフィックスを付ければ通話料金が安くなるのだろうか?
音声通話は発話側の電話会社と、受話側の電話会社の間の接続料金を元に通話料が決まってくる。ここで、発話側電話会社(A)と受話側電話会社(B)の接続料よりも安く中継してくれる接続会社(C)を介すれば、料金が安くなるという仕組みだ。この、接続会社(C)を使いますよ、という「宣言」が、電話番号の先頭に付けるプレフィックス(あるいは専用の通話アプリ)なのだ。
IIJmio(Dプラン)の場合、IIJはユーザーから30秒20円の通話料を受け取り、ドコモに30秒14円を支払ってドコモの音声交換機を使用している。ドコモは受話側会社(B)との事業者間接続料を払って接続する。これが、仮にIIJと接続会社(C)の通話料金が30秒10円で済めば、通話料金を数円下げることができる。
実は、ドコモがMVNOに対して要求する通話料の卸料金は、この6年間変わっていない。それに対し、ドコモが相手先電話会社に支払う事業者間接続の料金は年々下がっている。このギャップが「もっと値下げできるのではないか」というMVNO側の論拠となっているわけだ。
また、こうしたアプリの利用は、スマートフォンの標準機能である通話機能を使うよりも不便だ。総務省の「接続料の算定等に関する研究会」でも、低廉な通話の代替手段として妥当な手段とは言えないことを認めている。そこで、キャリア側は音声交換機で自動的にプレフィックス番号を付与する機能を提案しているという。
このプレフィックス番号自動付与が実現すれば、MVNOユーザーは音声通話時に自動的に中継会社を介した通話が利用できるようになり、音声料金の低減を実現できる。もし総務省の研究会がこれを「音声値下げの代替手段として妥当性がある」と認めれば、キャリアの通話料契約はそのままになるかもしれない。ただし、判断はまだ下されておらず、具体的にいつ、どれくらい安くなるのかは何も決まっていないとのこと。今後も引き続きキャリアや中継会社と協議して、利用者料金の低廉化を目指していくとのことだった。
ユーザー目線で見ると、通話定額は確かに魅力的なのだが、音声通話自体の需要は確実に下降している。もちろん一定の需要は今後もあり続けるだろうが、Zoomなど、よりローコストでリッチなコミュニケーション手段が存在するようになり、重要性は下がっている。また音声回線のIP化が進めば、これまでとは使用する設備も変わり、料金体系自体が変わってくることも考えられる。MNOもMVNOもユーザーも、三方が納得できる料金制度の実現を願いたい。