2020年8月に最終回を迎えた特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』の映画『劇場版 仮面ライダーゼロワン(仮題)』が、12月18日に公開される。映画では、テレビシリーズでメイン監督を務めた杉原輝昭氏がメガホンを取る。

  • 杉原輝昭(すぎはら・てるあき)。1980年生まれ。岡山県出身。東映テレビ・プロダクションで「仮面ライダー」「スーパー戦隊」両シリーズの助監督を務めた後、2016年『動物戦隊ジュウオウジャー』で監督デビュー。2018年『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』で初めてメイン監督となり、好評を博す。2019年『仮面ライダーゼロワン』でもメイン監督を務め、8本のエピソードと劇場版『仮面ライダー 令和ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019年)を演出した。2020年12月18日公開の『劇場版 仮面ライダーゼロワン(仮題)』も手がける。撮影:大塚素久(SYASYA)

杉原監督は、『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(2018年)のメイン監督として作品の骨子を築き上げ、魅力あふれるキャラクター描写や斬新なカメラワークによるアクションカットなど、意欲的な演出で注目を集めた気鋭の演出家。"令和"初となる仮面ライダーシリーズ『仮面ライダーゼロワン』(2019年)では、人工知能「AI」といった今日的なテーマをとりあげ、AI搭載人型ロボット=ヒューマギアと人間との関わりを中心にしたリアリティのあるSFドラマを志向。新時代の仮面ライダーと呼ぶにふさわしい作品を優れたスタッフ・キャストと共に創造した。

そして、9月18日から22日にオンライン開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020Powered byHulu」では、「京楽ピクチャーズ.PRESENTS ニューウェーブアワード」を、俳優・山田裕貴(男優部門)、女優・奈緒(女優部門)と共に「クリエイター部門」で受賞したことも記憶に新しい。

ここでは杉原監督に、『仮面ライダーゼロワン』(2019年)のメイン監督として突っ走った1年間の"振り返り"と、12月に公開が予定されている『劇場版 仮面ライダーゼロワン』への意気込みを訊いた。

――このたびは「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭/ニューウェーブアワード」受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。最初「受賞したよ」と聞かされたときはよく分からなかったのですが、今をときめく錚々たるメンツの中に入れていただいて光栄です。

――『仮面ライダーゼロワン』は放送第1回から、ゲストのなかやまきんに君さんが演じたお笑い芸人型ヒューマギア「腹筋崩壊太郎」がTwitterのトレンドに上るなど、幅広い世代からの注目度が高い作品でした。毎週、放送終了後には感想ツイートやキャライラストなどがアップされ、1年間常にホットな話題を呼び続けただけに、今回の杉原監督のニューウェーブアワード(クリエイター部門)受賞も納得という感じですね。

『ゼロワン』は意識的に新しい要素を採り入れた仮面ライダーシリーズですし、「AIは人と同じように心を持つのか」といった、なかなか扱いづらいテーマで果敢に"攻めた"作品でした。そういうところがみなさんの興味を引いたのではないかと思っています。「腹筋崩壊太郎」じゃなくて「腹筋崩壊太郎ロス」がトレンドになったんですよね(笑)。スタート時点から話題になり、拡散されていったのは本当にありがたいことでした。

――テレビシリーズの第1、2話で『ゼロワン』の作品世界を築き上げた杉原監督は、次に冬の劇場版『仮面ライダー 令和ザ・ファースト・ジェネレーション』にて、仮面ライダーゼロワン/飛電或人(演:高橋文哉)の"誕生"にまつわる物語を描かれました。そしてこの次は第21、22話と、ストーリーがかなり進んだ状態での参加となりましたが、それまでの展開は把握済みでしたか?

当初の打ち合わせの中で、事前に聞いていた方向性には沿っていましたが、ストーリーが進行して登場人物のポジションも変化していたので、とまどいみたいな気持ちは確かにありました。知らないところで、こんな話になってたのか!とかね(笑)。でも、これまでのオンエアもチェックしていましたし、ここに至るまでの登場人物の心情もある程度つかんでいたので、演出する分には問題ありませんでした。

――或人役の高橋文哉さん、秘書型ヒューマギア・イズ役の鶴嶋乃愛さんも、早いうちからご自身のキャラクターをつかまれていたようで、毎回の或人とイズのコミカルな掛け合いが作品の大きな魅力となっていきました。杉原監督からも、お2人の成長がうかがえるような出来事はありましたか。

『仮面ライダー 令和ザ・ファースト・ジェネレーション』のときから、文哉くんとは或人の人物像をどう表現すればいいか、こういった場面ではどんな演技をしたらいいか、よく話をしました。あの映画では、文哉くんと鶴嶋さんの2人に重要なウエイトを置いていたこともあり、テレビ放送回を担当していない期間も、毎日のようにずっと顔を合わせていました。なので、久しぶりに会って「おっ、上達したな」という印象ではなく、日に日に上手くなっていくのを見ていた感じです。

――第21、22話はZAIAエンタープライズの天津垓(演:桜木那智)と或人との「お仕事5番勝負」の3回戦「裁判」対決が行われたエピソードでした。これには「弁護士ビンゴ」役で南圭介さんがゲスト出演されましたね。

『宇宙戦隊キュウレンジャー』で、南圭介さん演じる鳳ツルギ(ホウオウソルジャー)の初登場回を演出したのは僕なんです。その時にお芝居についていろいろ話をしていたこともあり、裁判対決の回ではもう任せっきりというか、こちらから大まかなことを伝えたら、あとは好きにやってくださいと(笑)。南さんも楽しんで演じてもらえたと思います。

――そして杉原監督が次に手がけられたのが、お仕事5番勝負の最終戦となる「選挙」対決の第28、29話ですね。5番勝負ですが、飛電インテリジェンス=或人側のヒューマギアが善戦するものの、ZAIA側が卑劣な手を使ってくるのでなかなかスカッと勝利することができず、視聴者の方々もわりとモヤモヤすることが多かったと思います。

ラッパーのMCチェケラ役で副島淳くんに出てもらった回ですね。このあたりのエピソードでは、視聴者の方々の天津垓に対する"憎しみ"が募ってきて、観てるだけで辛いという声をよく聞きました。このエピソードで飛電インテリジェンスがZAIAに負けちゃうんですけど、後のエピソードで或人がふたたび「社長」であることを自覚する場面につながっていくので、この敗北は大事だったと思っています。"勝負に負けた"ときに或人が何を思い、何を学ぶのか……次につながるような負け方であればいい、という話を文哉くんとよくしていました。