今の時代、売れる作品に必要なのは「リアリティ」

「ただのマンガファン」と自称する井上さんだが、WEBマンガだからこそできる表現、そして読者にリーチするための強みと弱みを的確に指摘する視点は、本職顔負け。そんな彼がもしゼロからマンガを企画することになったら、どんな作品を生み出すのだろう。

「ゼロからマンガを作ることになったら……。難しいですけど、やっぱり芸能界で20年間働いてきたんで、この世界の“スポットライトが当たらないところ”を描くようなマンガを作りたいですね。芸能界って光り輝いてるじゃないですか。僕自身、その光に憧れて、輝かしいことだけを信じてこの世界に入ってきたんですけど、実際の芸能界は“1%の成果のために99%しんどい思いをする”世界。テレビで流れる映像は、撮影した内容を80%カットしたものですし、そもそも売れるためには、飲み会に参加してコネクションを作ったり、言葉のチョイス1つ間違えたら仕事がなくなるかもしれない現場を乗り越えたりすることが必要。そんな厳しい世界ですけど、それだけに裏側は表舞台以上にドラマティックかもしれません」

  • 井上裕介

    「具体的には言えないくらい、バリバリ怖い現場に遭遇したこともあります」と井上さん

そう語る理由をさらに深堀りすると、自身が芸能人だからという理由だけではないようだった。

「各時代のヒット作品の人気が出た理由を探っていくと、『時代のニーズに応えていた』というファクターが見えてくるんですよね。例えば、ドラゴンボールなら『ドラゴンボールを7つ集めれば願いが叶う』という要素。あの時代、“頑張れば願いは叶う”という夢や希望を多くの人が抱いていたと思うんです。だから、ドラゴンボールはフィクションでありながら、多くの人をワクワクさせて共感を集めた。ワンピースも同じで、人間同士の絆が求められる時代だから、ルフィと仲間たちの物語がヒットしたんじゃないでしょうか」

ヒット作品の裏側には時代からの要請があった――。とすると、今の時代でヒットを狙うにはどんな要素を取り入れればいいのだろう。

「『リアリティ』だと思いますね。だからこそ、芸能界の舞台裏を描くのがおもしろいんだと思います。でも、自分が芸能界にいるうちは、そんなことできないですね(笑)」

きらびやかに見える芸能界のリアリティを描ききれたら、多くの人に楽しんでもらえるはずだし、もし叶うならそんなマンガを作りたいと井上さんは語る。

お笑い芸人を目指す若者の姿を描いた『べしゃり暮らし』や、天才女優が主人公の『ガラスの仮面』、人気アイドルグループをモチーフとした『AKB49~恋愛禁止条例~』など、「業界マンガ」は数あれど、実際に芸能界で活躍していた人物が、その表と裏を赤裸々に描いたマンガは未だ存在しないのではないだろうか。それだけに、マンガファンとして、井上さんの発言にいろいろな期待をせずにはいられない……!

  • 井上裕介

    『りさこのルール』の編集会議でも、「作品内に登場する団体のHPを実際に作ってみては?」とリアリティを煽る演出を提案

編集担当作品に帯コメントをつけるなら?

インタビューの最後に、「編集担当した4作品への帯コメントをください」と無茶なお願いをしてみた。

「『ムラサキ』は、やっぱり『圧倒的画力!』、『りさこのルール』は『あなたの知らないリアルがそこにある』、『コッペくん』は『あなたは本当の優しさを知ってますか?』、『宇宙検閲官』は『このマンガを読めばコスプレしたくなること間違いなし!』ですね」

井上さんは、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐにそれぞれのタイトルにぴったりの帯コメントを答えてくれた。

普通ならしばらく考え込みたくなるお題なのに……。マンガ大好き芸人・井上さんの熱すぎるほどのマンガ愛と編集者目線、恐るべしである。

  • 井上裕介

NON STYLE LIVE Re:争論~リソウロン~

NON STYLE Re:争論

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