WEBにはおもしろいマンガがたくさん眠っている?
(取材時点で)連載準備中の作品である『宇宙検閲官』の編集会議では、トップバナー選びに白熱した議論が繰り広げられた。というのは、井上さんのマンガの選びかた、そして井上さんの考えるWEBマンガの弱みと強みに深く関係しているからだ。
「マンガを選ぶときの決め手って、いかに表紙やタイトルで心を掴まれるかなんですよ。パッと表紙を見たときに、その作品の内容とかテイストってなんとなく分かるじゃないですか。で、表紙やタイトルに興味を持てなかったら手に取らない。YouTubeのサムネイル画像と一緒ですよね。そこでワクワクしないとクリックしませんから。タイトルでいうと、僕個人はギャンブル系の話が好きなので、そういうキーワードが入っていると絶対手に取っちゃいますね。『賭ケグルイ』なんかはまさにそれで、作画的には普段手に取らないテイストなんですけど、タイトルにグッときました」
自身が表紙とタイトルをきっかけにマンガを買うことが多いため、WEBマンガの表紙にあたるトップバナーにこだわった井上さん。書店でふと目に入りやすい紙のマンガよりも、読みたいマンガがあってサイトを訪れるWEBマンガのほうが、「おもしろいのに見つけてもらえない」ことが多いと感じている。
「これはWEBマンガの強みでも弱みでもあるんですけど、『なんとなく』で手に取る人が少ないんですよね。自分が読みたいマンガを目指してサイトを訪れて、欲しい作品だけ買って、集中して読む人が多い。購入した作品には対しては没入して読むし、一度ファンになったら更新されるごとに読み続けてくれるけれど、一回でも読んでもらえなかったらずっと読んでもらえないまま。だから、本当はおもしろいのに埋もれてしまっているWEBマンガって、いっぱいあると思うんです。そんな中で『このマンガがおもしろいんですよ!』と伝えるのが難しいですよね」
WEBマンガは、書店よりも気軽にアクセスできて、一度読み始めれば作品世界に没入してもらえるものの、目的外の作品に目を向けてもらうのが難しいと考える井上さんに、WEBで読者を獲得するためのヒントについて尋ねてみた。
「僕ならネットに全ページ公開するようにします。昔、海外ドラマ『24 - TWENTY FOUR-』全盛期に、TSUTAYAで1話分無料のDVDがあったんですよ。それを借りて1話を観たら、絶対に2話が観たくなる。マンガのおもしろさに自信があったら、こんな風に贅沢な“試食”をさせてもいいと思います。ただし、『試食(作品公開)やってますよ〜』というところに辿り着いてもらえないと意味がないので、自分が持っているネットワーク、SNSやYouTube、なんでも使って、ネット上で拡散しますね」