コーチングを実践する方法
次に、具体的にコーチングを実践する方法について紹介します。
コーチングを実践するためのステップ
コーチングの進め方には、クライアントとの関係やジャンルによっていくつかのモデルがあります。ここではコーチング初心者でも結果を出しやすい、基本的な6つのステップについてみていきましょう。
【ステップ1】現状確認
・現状・事実確認をする
・課題を具体的にする
ステップ1では、まず「現状を確認し、今の状態や起きていることを具体化・明確化」します。現状をクライアントに確認し把握することで、クライアントの感情や思考が整理され、「何をすればいいか、何をしないほうがいいか」を考えるきっかけとなります。
クライアントによっては思い込みや勘違いで現状にそぐわない問題を作り出していることもあるので、しっかりと話を聞いて現状を整理しましょう。また、ヒアリング時に意見や批判は言わず、丁寧なヒアリングに徹することで、クライアントとの信頼関係を築いていきます。
【質問例】
- 今はどんな状態ですか? 進捗はどうですか?
- 困っていることはありませんか?
- もう少しくわしく教えてください
- そのことについてどう思いますか?
- その課題に対してどう取り組んでいるのですか?
現状整理ができたら、課題を具体的にしていきます。課題を明確にすることで、成果が出ない原因や、課題をクリアするために必要な要素が見えてきます。成果が出ない原因は、施策のポイントがずれていたり、環境や人間関係、クライアント本人の能力や価値観など何か障害となる要因があったり、ということが考えられます。
【質問例】
- 困っていることを解決するために、何が必要ですか?
- 行動を止めているのは何か理由がありますか?
- 行動を妨げる要因はありますか?
- マイナス要因となっているのは何ですか?
【ステップ2】目標/ゴールの具体化
・ゴールを具体的に描く
・目標/ゴールを達成する理由を明確にする
・ゴール達成の価値観を明確にする
・目標/ゴール達成のリスクを明確にする
ステップ2では、「目標/ゴールを具体化・明確化」していきます。目標やゴールを明確にすることでクリアすべき課題が明らかとなり、その結果、思考や行動も変わっていきます。
このステップでは、まず可能な限り目標/ゴールを具体的にしましょう。具体性の目安は、クライアント以外の第三者が目標やゴールを聞いて、何を達成したいのかが理解できる程度です。
【質問例】
- どんな状態になりたいですか?何を実現したいですか?
- 最高の結果は何ですか?
- あなたにとっての魅力的な未来はどのようなものですか?
- それらは具体的にどんなことですか?
- いつそうなりたいですか?手に入れたいですか?
- 誰とその目標を達成したいですか?
目標/ゴールが具体的になったら、それを達成する理由や目的へと掘り下げていきます。なぜその目標やゴールを達成したいのかを明確にすることで、達成の動機付づけ・自発性、行動中の充実感や満足感が高まります。
ポイントは、人を動かす原動力は「なぜ(WHY)」から生まれることです。こう考えることで、クライアントの心の深い部分にある感情に結びつき、目標/ゴールを達成するための大きな原動力となります。
【質問例】
- どうしてその目標/ゴールを達成したいのですか?
- その目標/ゴールを達成することにより、何が得られますか?
- それを得ると、さらに得られるものはありますか? (数回このプロセスを繰り返す)
このプロセスでは、クライアントが短い言葉で回答できるようにすることがポイントです。
目標/ゴールを達成する理由が明確になったら、さらにそれに対する価値観を明確にしていきます。目標やゴールを達成するための価値観が明確になることで、判断基準も明確になり、すべきことの見極めや行動力が高まります。
また、クライアントの強いモチベーションや自主性が生まれ、価値観を周りと共有し合うことが可能となるので、目標/ゴール達成がしやすくなります。価値観が複数ある場合には、判断で迷わないように優先順位をつけていきましょう。
【質問例】
- 目標/ゴールを達成するために大切なことは何ですか?
- ほかにどんなことが大切ですか? (出なくなるまで繰り返す)
- この大切なことに優先順位をつけるとしたら、どうなりますか?
目標/ゴールを達成することにより、「勉強するため自由時間が減る」「特定の練習を継続することで選手生命が短くなるおそれがある」「家族と過ごす時間が減る」など、発生するリスクも確認しておきます。掲げた目標やゴールの達成は、長期的にみるとマイナス要因となるかもしれません。リスクを確認しておくことで、よりよい行動を選択でき、中長期的にみてバランスを取ることができます。
クライアント本人にとってのリスクだけでなく、関係者や第三者などさまざまな視点から検証しましょう。
【質問例】
- 目標/ゴールを達成する過程で自分にマイナスとなるポイントはありませんか?
- 周りの人はどうですか?
- 中長期的に見て、自分や周囲にどんな影響があると思いますか?
- 第三者からみると、あなたの目標/ゴール達成はどのように見えると思いますか?
【ステップ3】課題発見
・課題を見つける
ステップ3では、目標/ゴール達成のために解決すべき課題=ギャップを明らかにしていきます。課題を見つけていくことで、必要な行動やポイントがわかり、目標/ゴール達成までのロードマップを描けます。
課題発見の過程では、すでに同様の目標やゴールを達成している人や事例で、どのような課題があったか、それに対しどう考え行動したかを知ることです。他の事例から学ぶことで、効率よく目標/ゴール達成を目指せます。
また、課題は「行動や習慣」「能力やスキル」「個人的な環境」「思考やもともとの価値観」などジャンルに分けて掘り下げることで、よりクリアになっていきます。
【質問例】
- 目的・ゴール達成のためには何が必要だと思いますか?
- 目的・ゴール達成できない原因や理由は何だと思いますか?
- その原因や理由はどこからきていますか?
- 同じような目標/ゴールを達成した人は、どのような課題を、どのようにクリアしていきましたか?
- その人たちは具体的に何をしたのですか? (数回繰り返す)
【ステップ4】新たな行動・具体的な選択肢をつくる
・課題をクリアするための新たな行動を検討し、具体的な選択肢をつくる
ステップ4では、課題をクリアしていくための新たな行動・具体的な選択肢をつくっていきます。行動や選択肢の見直しによってこれまでの成果との違いを検証し、新しい結果を手にする可能性が高まるほか、クライアントに柔軟性が生まれます。
ポイントは、ステップ3で明確にした課題を、行動に置き換えることです。目的・ゴールを達成した人を見本に、彼らが実践したことをリストアップし、行動してみることも重要です。
【質問例】
- 課題をクリアするためには何をすればいいですか?
- 同じ目標/ゴールを達成し結果を出している人は、どんな行動をしていましたか?
- 彼らの行動に習慣やパターンはありますか?
- 課題を解決するために必要な能力アップのために何をすべきですか?
- 課題を解決するためにはどんな環境がいいと思いますか?
【ステップ5】リソースの明確化
・リソースを発見する
ステップ5では、目標/ゴール達成に役立つリソースを明確化していきましょう。 リソースは、能力や知識、経験、時間、お金、協力者、環境、メンターなど、有形・無形を問いません。協力者やメンターなど、クライアント以外のお金や時間、経験もリソースに含まれます。
使うことが可能なリソースや必要性を明確にして得ることで、目標/ゴール達成のための成果を早く得やすくなります。リソースは、「すでに持っているもの」「協力者から得られるもの」「必要なもの」に分けて考えてみましょう。
【質問例】
- すでに持っているリソースは何ですか?
- 忘れているリソースはありませんか?
- 言われたことがあるあなたのいいところは何ですか?
- 目標/ゴール達成のために必要なリソースは何ですか?
- その必要なリソースを持っている人は誰ですか?いつ、どこで、どのように入手できますか?
【ステップ6】ロードマップの作成
・行動計画を立てる
・振り返りポイントを決める
・目標/ゴール達成のための意思確認をする
目標/ゴール達成のための課題がクリアになり、課題解決のために取るべき行動やリソースが明確化したら、達成へのロードマップを作成します。ゴールから逆算して中間ゴールや期限を決めていくことで、実現に向けて進捗を確認しながら、達成のためにいつ何をすべきか明らかになります。
まずは、理想の行動計画を作成したうえで、その計画が実現可能か建設的に判断し、修正を加えていきます。
【質問例】
- いつまでに、どうやって目標/ゴールを達成したいですか?
- ゴール達成までに、中間地点でのゴールとして何を達成したいですか?
- 期限までに目標/ゴールを達成するために、中間ゴールはいつごろがいいと思いますか?
- その目標/ゴールはこの計画で達成可能ですか?
- 目標/ゴール達成のために、最初は何をする必要がありますか?次は何ですか?(繰り返す)
行動予定ができたら、立ち止まって振り返り、それまでの過程を評価するタイミングや基準を決めましょう。定期的に振り返ることで進捗や達成度を確認でき、PDCA(Plan→Do→Check→Act)を回しながら行動を最適化できます。
【質問例】
- いつ、どのように進捗を確認しますか?
- 行動が適切かどうかは、どう判断しますか?
- 期待した結果が得られていない場合、どうしますか?
最後に、本当に目標/ゴール達成をする意思があるのか確認しておきましょう。そうすることで、クライアントの気持ちにスイッチが入り、最初の一歩をうながします。
ここで注意したいのが、目標/ゴール達成を指導する側がプッシュするのではなく、クライアント本人の決断を待つことです。目標/ゴールを達成したいのに決断を躊躇している場合は、躊躇する原因を問いかけてみましょう。
【質問例】
- この目標/ゴールを本当に達成したいですか?
- 目標/ゴール達成にともなう結果や行動に責任を持ちますか?
行動コーチング
コーチングには、「行動」「メンタル」の2種類があります。達成したい目標やゴールに向かってどう行動すべきか、どのような能力やスキルを身につけるべきかなど、行動をともなうコーチングが「行動コーチング」で、自ら環境を変えることも含まれます。行動コーチングには、次のようなものが含まれます。
【行動コーチング】
・現状の確認
・目標/ゴールを明確にする
・課題を見つける
・新たな行動・具体的な選択肢をつくる
・リソースを明確にする など
前述したコーチングのステップが、行動コーチングであることがわかります。
メンタルコーチング
目標/ゴール達成に向けた最適な行動をさまたげる要因には、物理的なものだけでなくクライアント本人のマイナス思考や悩み・不安・トラウマなど、クライアントのメンタルに基づくものもあります。これらのクライアントの感情やものの見方などに対応するのが、メンタルコーチングです。
メンタルコーチングでは、行動のさまたげになる次のような内容について対応をおこないます。
【メンタルコーチング】
・不安や恐れ、プレッシャーへの対応
・心理・感情的なケア
・ネガティブな思考とその原因となるできごとやものとの因果関係を探る
・自己肯定感の向上
・セルフイメージの向上
一流アスリートがメンタルコーチを採用して、プレッシャーをはねのけ「強い自分」となるために努力しているという話をよく耳にします。同様にビジネスやそのほかのシーンでも、メンタル面を適切にコーチングすることで、目標/ゴール達成に着実に近づくことが可能になります。言い換えると、メンタル面に課題がある場合、それをクリアしないことには目標/ゴール達成が困難と言えるでしょう。