裁判については、Epicが規約違反を犯しているという点でApple有利と見る向きが多い。だが、どう転ぶかは分からない。

大きな理由の1つは、IT大手、中でもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Amazon)に対する逆風の強まりだ。反トラスト法に基づいて米IT大手を調査している米下院司法委員会が7月29日にGAFAのCEOを集めた公聴会を開催。規制や分割の必要性も探る議員との激しい応酬は米国だけではなく、世界中に報じられた。追求気運が高まる中、AppleやGoogleの主張や反論は「反競争的」と受け取られやすい状況である。今回、Epicの代理人を務める法律事務所の1つがCravath, Swaine & Mooreだ。American Express対オハイオ州、AT&TとTime Warnerの合併といった訴訟で勝ってきた(American ExpressとAT&Tの代理人を務めている)。同事務所がApple対Epicのような反トラスト訴訟において、Epic側に立つことが今の空気を示している。

  • 米下院司法委員会の公聴会にリモートで出席したAppleのティム・クックCEO。同社に対しては、App Storeにおいてアプリ審査の権限を濫用しているのではないかという点に質問が集中した

24日の連邦地裁でのヒアリングで、イボンヌ・ゴンザレス・ロジャーズ判事は、Fortniteの削除については、Epicが自身で現在の困難な状況を作り出しているとして配信再開の命令要請を退けた。規約違反以後について、適切な論争を期待しただけでどのような展開になるか予想できていなかったというEpicの主張にも懐疑的な意見を示した。

一方で、開発者アカウントの停止措置については一時的な差し止め命令を出した。ゲームエンジン開発をもう1つの事業の柱とするEpicの開発者アカウントを停止したら、広く第三者に大きな被害が広がるのが分かっていたはずであり、開発者アカウントの停止は問題に対する適正以上のペナルティ、報復のように見えるとした。

ヒアリングを通じて、ひとまずEpic劇場の混乱が整理された形だ。次回9月28日が差し止め訴訟の本格的な審理になる。そして、数カ月後から長い裁判が始まる。

ただ、裁判の行方がどのようになるにせよ、現状のままこの問題が完全解決に至ることはないだろう。

App Storeが成功したのは、ソフト流通の主流がパッケージだった時代に、コストをかけずに誰でも世界中にアプリを提供できるアプリストアを用意して、世界中の開発者の熱い支持を得たからだ。今も売上の100%を得て自分たちでソフトウエアを販売・配信するより、売上の30%を使ってApp Storeでアプリを提供したいというアプリ開発者はたくさん存在する。だが、メールアプリ「Hey!」のBasecampやWordpressのように、App Storeとのトラブルを公表する開発者が増えてきた。Appleは、App Storeがソフト市場に公平をもたらしたと主張しているが、それはソフト流通がパッケージだった時代の比較である。それから細かな修正や対応を繰り返してきたが、あらゆるソフトやサービスがオンライン配信されるようになった今でもApp Storeの仕組みが最善であり続けているかというと疑問符が付く。

後編では「Epicの乱」で論争に火が付いたApp Storeの問題にスポットライトを当てる。