騒動の原因は、Appleのアプリストア「App Store」とGoogleの「Google Play」がアプリ開発者に対して、ストア手数料として売上の30%を課していることだ。アプリを配信するサーバの運用管理、配信するアプリの審査や品質管理、SDKの開発・管理、顧客サポートなど様々な費用がかかるとしても30%は高すぎるとしている。実際Epicは同社のオンラインゲームストア「Epic Games Store」で運営コストとして12%を徴収、88:12の収益配分モデルで提供している。

  • Epic Games Storeでは売上の88%をゲーム開発者に

さらに、アプリ内購入にAppleやGoogleの課金システムを使うことを課し、アプリ/ゲーム内でのデジタルグッズやデジタルサービスの販売からも売上の30%を徴収していることに不満を爆発させている。例えば、Fortniteの場合、ゲーム自体は無料で遊べるようにしてあり、プレイヤーがゲーム内通貨のV-Bucksを使ってスキンやエモートなどを入手してキャラクターをカスタマイズすることから収益を上げている。ゲーム内でV-Bucksを購入できるようにしておくとプレイヤーにとって便利だし、そうあるべきだろう。Epicは独自の課金システムを持っているが、iOSデバイスで購入できるようにするにはAppleの課金システムを使う必要があり、V-Bucksの売上の30%をAppleに支払うことになる。

  • 無料プレイでプレイヤーを増やし、スキンやエモート、バトルパスといったデジタルグッズで稼ぐ収益モデルで成功したFortnite

同じアプリを使った買い物でも、Amazonアプリでパッケージ版のゲームを買ったり、Uber Eatsでディナーを注文しても、AmazonやUberがそれらの売り上げからApp Storeに30%を支払う必要はない。70:30ルールの対象はデジタルグッズおよびデジタルサービスだけであり、物理的なグッズやサービスは対象外だ。それならデジタルグッズやデジタルサービスについても、Appleのシステムを使わずに決済や商品の配信を行えるアプリ/ゲーム開発企業は、物理的なグッズ/サービスと同じような自由を得られるべきというのがEpicの主張だ。AppleやGoogleの課金システムの使用を押し付けて30%を徴収するのは、プラットフォーマーがその立場を利用した独占的な行為ではないかと世に問うているのが「Epicの乱」である。8月13日の出来事をふり返ると:

  • モバイル版Fortniteに、Epicが同社独自の課金システム「Epic direct payment」を使ってV-Bucksを購入できるオプションを用意。30%の手数料がかかるApp StoreやGoogle Playの課金システムではEpicよりも20%価格が高くなる。
  • 独自の課金システムのオプションは規約違反であるとしてAppleとGoogleがアプリストアから「Fortnite」を削除。
  • 削除を「待ってました」とばかりにAppleとGoogleを提訴、「Fortnite」の配信再開と独自の課金システムのオプションを求める。
  • 1984年にAppleがスーパーボウルで公開した有名なMacintoshのテレビCM「1984」を、Fortniteのキャラクターでパロディ化したビデオをEpicが公開。Fortniteプレイヤー達に共に戦うことを求める。
  • Apple製品ユーザーの分断を煽るような「1984」のパロディ動画

これだけのことがたった1日で起こった。意図的な規約違反からアプリ削除、提訴、そしてコミュニティを巻き込んだ抗議活動というシナリオをあらかじめ用意していたようなスピードだ。ところが、この後Epicが思い描いていた以上の展開になって、Epicもあわてることになる。

  • 8月17日:規約に違反するEpicに対して、Appleが開発者登録を8月28日付で停止させると警告してきたことを公表。それを報復行為とし、報復停止を求めてAppleを再び提訴。

Epicは「Unreal Engine」というゲームエンジンを開発しており、今は新バージョン「Unreal Engine 5」の投入に向けた重要な時期である。開発者アカウントが停止になってUnreal EngineのiOSやMac向けのアップデートが滞ると、その影響はEpicだけではなく、Unreal Engineを採用するパートナーや開発者にも及ぶ。

EpicはApp Storeの規約に同意していながら違反し、違反部分の修正要請を拒否している。規約に違反した開発者に対するルール通りの対応をAppleは粛々と進めている。それでもEpicは引かずに警告の事実を公表。対立がチキンレースの様相になって、深刻な影響がゲーム産業全体や映像産業にも及ぶ可能性が出てきた。

  • 8月23日:開発者登録の停止措置の撤回を求めるEpicの申し立てを支持する文書を提出したとMicrosoftが発表。

MicrosoftはEpicをサポートしているが、Unreal Engine問題に関してであり、App Storeの問題には言及していない。Unreal Engineをライセンスするパートナーとして、影響がゲーム産業全体に拡大するのを避けるための支持と見られる。

  • 「EpicがAppleの最新のテクノロジーにアクセスできるようにすることが、ゲーム開発者とゲーマーにとって正しいこと」とXbox事業を率いるMicrosoftのPhil Spencer氏

  • 8月22日:裁判資料として提出された電子メールの中で、EpicがAppleに対して特別扱いを求めていたこと、App Store内にアプリのインストールやアップデートも可能なEpic Games Storeの開設を求めていたことが明らかに。

Epicのティム・スイーニーCEOが「Appleの指摘は(自作自演を思わせる)ミスリーディングを誘う」とし、「Appleがこれらのオプションを他の全てのiOS開発者にも同じように提供することを望む」という部分がメールにおいて自分の言いたかったことだとツイート。だが、公表されたメールを読んだ上で、逆の印象を指摘する声が優勢。Epic劇場にほころびが見え始めている。

  • Appleへのメールで、「iOSカスタマー」とすべきところが「Androidカスタマー」になっていて、AppleとGoogleに同じ要請のメールを送っていた疑惑も話題に