好きなものに対して、何かしたかった
――ブシロードさんは「BanG Dream!」では無観客花火大会の実施と配信、「D4DJ」や「ARGONAVIS from BanG Dream!」ではキャラクターが織りなす“音のみ”のオンライン配信ライブなど、様々なコンテンツをオンラインで供給し続けています。実際にやってみて、手ごたえは感じていますか?
木谷:花火は楽しかったですね。全国の花火大会が中止になるなか、新型コロナウイルスの厄払いの意味も込めて実施しました。感染者数がまた増えてきてしまいましたが、配信を見た方に少しでも楽しんでもらえていれば幸いです。
その他、中止になったイベントの代わりに色々な形でコンテンツを供給してきました。無観客ライブの配信やサウンドオンリーライブ、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」では事前に撮影した映像を編集して配信するという形で公演を実施しています。
また、「BanG Dream!」に登場するバンド「RAISE A SUILEN」に焦点を当てた舞台は8公演すべてを配信して、最終日だけライブビューイングを行い、さらにこの映像を後日配信しました。このように、配信という供給の仕方がひとつ加わっただけで、音楽コンテンツの見せ方やビジネスに、より多様性が出ました。その点に関しては手ごたえを感じています。
――これまでの配信は、「おまけ」「ついで」という意味合いが強かったかもしれません。
木谷:「音楽」はそうじゃないですか。ただ「スポーツ」は試合そのものをコンテンツとしてとらえ、ケーブルテレビといったところに販売したり、早くから配信ビジネスにも取り組みを行っています。
「音楽」はそういう概念がまだあまり定着しておらず、ビジネスにしているところも限られている気がします。今年がまさに元年になるかもしれません。日本の「スポーツ」も欧米に比べてコンテンツをビジネスにしていくのが遅れていましたが、ようやく色々な競技を海外にも配信することが始まりました。
新日本プロレスも2014年に、「新日本プロレスワールド」という配信サービスをスタートしています。3~5月は試合がなかったのでコンテンツの供給ができず利用者数も減りましたが、6~7月にかけて東京ドームでの試合時くらいまでの数字に戻りました。収益の面でも大きな支えとなっています。
棚橋:俺も後から聞いて驚きました。ビッグマッチが終わった後はだいたい利用者数が減るんですよね。東京ドームの試合後も例に洩れず、利用者数が少し減りました。ただ、今回は新型コロナウイルスの影響で2割も下がったんです。それが、6月からコンテンツを供給し始めたら一気に利用者数が増え、数字が元に戻ったんです。
木谷:加えて、7月3日にはBS朝日にて34年ぶりに「ワールドプロレスリング」の試合が生中継されたんですよ。この中継の視聴率が結構よかったんです。
棚橋:試合ができず、もどかしいことも多いですが、34年ぶりにプロレスが金曜8時(20時)に戻るなど、いいこともあるんですよね。それは救いです。
――利用者数の増加、そして視聴率がよかったのは、お客さんがコンテンツを求めているからだと思います。
木谷:そういう反響を見ていると、エンターテインメントは常にコンテンツを配信し続けて、お客さんに楽しんでもらったり、夢や希望を持ってもらったり、日々の生きる活力を持っていただいたりすることが使命だなと思うんです。それはリアルだろうがオンラインだろうが、同じことなんですよ。
――観客を入れてのイベントができないからといって、エンターテインメントができない訳ではない。
木谷:そうです。「BanG Dream!」は5月3日にメットライフドームにて、初となる6バンド総出演ライブを開催予定でしたが、このライブも残念なことに延期となりました。その代わりに、過去のライブをキャストの実況付きで配信するという取り組みを行ったんです。この配信は、連日4~5万人が同時接続してくれました。コンテンツを求めてくださる方の多さを改めて実感しましたね。また、結果として、ライブグッズも相当数売れたんですよ。グッズに関しては新日本プロレスもそうで、試合がゼロだったにも関わらず、商品の売り上げが通常の半分くらいありました。驚いたのと同時にお客さんに感謝しました。
棚橋:俺も音楽が好きなので、自粛期間にライブハウスTシャツや、好きなバンドのTシャツをたくさん買いました。好きなものに対して、何かしたかったんです。新日本プロレスの商品が売れたのも、それと同じ思いだったのかもしれません。ファンが支えてくれているということを実感しています。
愛美:この期間で私も、支えていただいていることをより実感しました。
イベント延期による収益への影響
――オンライン展開への手ごたえについてお話いただきましたが、実際、イベントの中止や延期は興行収入の面で大きな痛手となったと思います。
木谷:例えば、新日本プロレスは大きな収益として「興行収入」、「グッズ売上」、そして、棚橋さんなどの選手がTV出演された際の出演料や配信・テレビの放映権料といった「メディア収入」の3つがあります。その中で、先ほどもお話したように、配信の利用者数は減っておらず、選手たちのテレビ出演も続いているので「メディア収入」はあまり落ちていないんですよ。「グッズ売上」もお客さんに支えていただき、何とか保っています。一方、「興行収入」は興行をやらないと収入はありません。
――試合をしなければ、「興行収入」はゼロ。
木谷:むしろ、準備までの費用もありますし、基本はキャンセル料がかかりますので、マイナスです。プロレスの興行・音楽ライブ共に3~5月は大きなダメージを受けました。また、チケットを販売した後にイベントが延期となり、その分の返金を行うと、手数料がかかる場合があります。そのため、「やります」→「入金しました」→「延期です」→「払い戻します」が続くのが、一番ダメージを受けるんですよ。考え方によっては、最初から中止と決めた方がダメージは少ないかもしれません。
――延期し続けることによって、ダメージが増えていく。
木谷:そうとも言えます。7月から感染者数が増えてきましたので、一度延期して再度延期となったイベントは、ダメージが大きいかもしれません。なので、年末年始に会場を押さえているイベントは、お客さんを入れられるパターンが「フル」「半分」「ゼロ」どれになっても「やる」と決めて計画していますよ。プロレスの場合は巡業システムが確立されており、音楽ライブに比べてローコストで実施ができます。大阪城ホールの試合でいえば、実は3,500人前後の集客でも2日間やれば採算が合うんですよ。これが音楽ライブだと、大赤字です。それでも、例え興行そのものが赤字でも、我々エンターテインメント企業はコンテンツを作っていかないといけないんです。この歩みを止めるわけにはいかない。
――興行収入が見込めない分、イベントの抑制が続く間は配信が収入源においても重要になってくる。
木谷:そうですね。あとは政府が補助してくれているので、それも助かっています。ただ、その補助は、延期になったイベントの開催に充てるものなので、そもそも手持ちがなくなって開催ができなくなったら、補助を受けるのも難しくなってしまいます。今お話している補助は文化・芸能が対象ですので、プロレスは対象外です。ただ、スポーツ庁には別でサポートをしていただいているので、そういう補助についても、企業としては考えないといけません。