山口作品で注目したいのは、原作をドラマ化する際、独自の大胆なアレンジを施すことだ。中でも『きらきらひかる』の手腕は見事だった。
1人のスーパーウーマン的存在の女性監察医が主人公の漫画原作だが、ドラマ版では主人公を新人監察医(深津絵里)に変更し、その同じ職場の先輩(小林聡美)と、憧れの存在である法医学教室の助教授(鈴木京香)、事件の協力を依頼する刑事(松雪泰子)と、女性4人が活躍する物語に仕立てた。
「『きらきらひかる』は、キャストの並びで言ったら深津さんの後に柳葉(敏郎)さんがいて、松雪(泰子)さん、(小林)聡美さん、トメが(鈴木)京香さんという番手なんだけど、番組のビジュアルは女優4人でだけで作りました。業界の常識で二番手の柳葉さんがポスターに載っていないなんてありえないけど、そういう行政的なことは無視して、女性4人がカッコいいお話なのでビジュアルはこれで、と関係各位を説得してやりました。そういう明確なビジョンを提示できれば、ビジュアル作りもその道のプロのクリエイターたちが意気に感じてより素晴らしい仕事をしてくれる。もちろん調整は大変で怒られたりするんだけど、怒られたり嫌われてナンボ、世界観を作り打ち出せてこそのプロデューサーだと思います」
また、ドラマの大きなカギを握る、崩れたアパートの瓦礫の中から見つかった“小さな歯のかけら”から展開するエピソードの構成も巧みだった。「阪神・淡路大震災」から始まり、「東ヨーロッパの動乱」や「チェルノブイリの原発事故」へとさかのぼる壮大な物語を原作ではたった2話で完結していたが、ドラマ版では全10話にわたって謎が解き明かされる構成にし、より丁寧に、よりドラマチックな流れを作った。
「“小さな歯のかけら”のあのエピソードは完全に原作のものなんですよ。だけどそれを原作通りになぞるのではなく、原作を理解し、原作者に敬意を表しつつ、さらに発展させてドラマとしてやる場合はどう見やすくできるかを考えることが大事です。そのキーとなったのは、篠原涼子さんが演じた杉冴子。鈴木京香さんが演じた杉裕里子の実妹で、阪神・淡路大震災で亡くなったという役柄でした。『きらきらひかる』のキャスティングとメイン・エピソードを含む世界観は、当時他局ながらTBSの植田(博樹)さんも『面白くて感服しました』とほめてくれて。さまざまな企画や作品と格闘してそういうつながりがあったから、今でもいろいろな局や媒体の方々と仕事できているのかなと感謝しています」
■今の時代にもう1回やりたい『漂流教室』
アレンジという点では、『ロング・ラブレター~漂流教室~』も忘れられない。この作品は楳図かずおのSFホラー漫画を原作に、ドラマ版では舞台を小学校から高校に変更し、主人公である教師や教え子たちの恋愛と青春を交えた群像劇に仕上げた。その主題歌が、山下達郎の爽やかなポップチューン「LOVELAND, ISLAND」で、SF作品とのギャップもあって衝撃を受けた。
「あの頃はプロデューサーとしてフジテレビに守られつつ好き勝手やっており(笑)、主題歌も私の独断で決めました。『漂流教室』をテレビドラマ化するにあたり、“未来の滅びた地球の乾ききったアスファルトに一滴の命の水が落ちる”という視覚的なイメージがあった。一方、私の解釈では、山下達郎さんは『LOVELAND, ISLAND』で、“乾いた世界に見つけ出した潤いや救い”を唄われており、エンディングにぴったりではないか、と考えたのです。あの漫画の根幹となる着想は、楳図先生の天才的な才能が生み出した奇跡で、時代を超えた普遍性があると思っています。『漂流教室』は楳図先生に頼んで、今の時代にもう1回やりたい、ぜひ挑戦したい作品です。今度は原作通り小学生でやってみたい、主題歌はまた『LOVELAND, ISLAND』がいいですね」
山口氏の作品は、俳優やクリエイターたちの才能を存分に発揮させ、どうすれば多くの視聴者に届けられるのかというクリエイティブな精神がたくさん詰まっている。今回の『ハケンの品格』でも、長年起用し続けてきた篠原涼子=大前春子にどんな魅力が加わっていくのか、そしてどんなドラマが生まれていくのか。その手腕と共に、最後まで見届けていきたい。
●山口雅俊
兵庫県神戸市出身。フジテレビで『ナニワ金融道』シリーズ、『ギフト』、『きらきらひかる』シリーズ、『カバチタレ!』、『ロング・ラブレター~漂流教室~』、『ランチの女王』、『ビギナー』などをプロデュース、05年に独立。株式会社ヒントを設立し、プロデューサー、あるいは監督や脚本家として、『ハケンの品格』のほか、映画『カイジ』シリーズ、ドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ、ドラマ『やれたかも委員会』、ドラマ『新しい王様』などを手がける。