大森美香氏

山口氏は他にも、『カバチタレ!』で当時のプロデューサー助手の才能を見い出し、異例の抜てきで脚本家として世に出している。次期NHK大河ドラマ『青天を衝け』も控える大森美香氏である。

「大森美香さんは優秀なアシスタントで、ずいぶん助けられました。よく飲んだり食べたりしながら、『同級生が自分より早く結婚した。負けた。でもその結婚相手の男がブサイクだったら、勝ち?、かも?』みたいなアホ話をいつも一緒にしていたけれど、そういうセリフを脚本にストレートに取り入れていいのが『カバチタレ!』というドラマでした。2話のラストシーンで田村希美(常盤貴子)に栄田千春(深津絵里)が、『これからも一緒に……信じてみない?』でも「……戦ってくれない?』でもなく、『……踊ってくれない?』と言うようなドラマ。女性の友情や生き方のドラマであるとともに、例えるなら、ワニに“ワニ”というテロップを出していいドラマ。

例えば、人間のアホさ、人生のバカバカしさを真正面から突き詰めて描いていけばそこにドラマが生まれるのだということ。そういう場を用意し、そういう道筋をつけてやるのがプロデューサーだし、そこの責任をプロデューサーが背負うからこそ、脚本家は持てる持ち味や才能を解放させ爆発させるのだと信じています。大森さんは私のところで『脚本修業した』なんて書かれていますが、むしろ、信頼して抜てきし責任を負った、ということだと思います」

■中園ミホ脚本に驚かされること

中園ミホ氏

そうしたプロデューサーと脚本家の共同作業、信頼関係というのは、『ハケンの品格』でどのように機能しているのだろうか。

「前回の『ハケンの品格』では、お話ししたように主人公・大前春子のキャラクターと、『働くことは生きることだ』という大きいテーマを提案しました。今回はプロデューサーとして、主に各話の横軸となるエピソードを考えて中園ミホさんに提案しています。

具体的には、カレーの回(第3話)の『バイトが組織の中で誰よりも意識高く仕事をし、仕事を愛していた』とか、黒豆ビスコッティの回(第5話)の『商品の栄養価についての偽装があったため、隠ぺいのためシュレッダーされた原本資料。それをジグソーパズルの技能で復元する大前春子』とか、最終回にかけての『レジ横の“ついで買い”現象。かつてはミニ羊羹だったりしたけど、働く女性たちの時代は“アジフライ”かも』といったアイデアですが、そういう“ヒント”を料理して脚本に仕上げるのは、すべて中園さんの手腕です。いつも完成した脚本の展開力やセリフの巧みさ、肩の力が抜けた軽やかなテンポと深い余韻に、いつも驚かされます。尊敬しかありません」