13年ぶりに復活した篠原涼子主演ドラマ『ハケンの品格』(日本テレビ系、毎週水曜22:00~)。第1作放送の2007年と環境が大きく異なる時代の変化を描きながら、主人公・大前春子の“スーパーハケン”ぶりは当時と変わらない痛快なキャラクターで、多くの視聴者を楽しませている。

前作では企画を担当し、今作にはプロデューサーとして参加している山口雅俊氏(ヒント)。元フジテレビで、在局時には中居正広主演『ナニワ金融道』シリーズ(96年~)や、木村拓哉主演『ギフト』(97年)などをプロデュースし、独立後には山田孝之主演のドラマ・映画『闇金ウシジマくん』シリーズ(10年~)の監督・プロデュース、藤原竜也主演の映画『カイジ』シリーズ(09年)の企画を立ち上げ、地上波と配信でシーズンをつないだ同じく藤原竜也主演のドラマ『新しい王様』シリーズ(19年、TBS・Paravi共同制作)の脚本・監督・プロデュースなど、媒体にとらわれない様々な意欲作を作り続けている人物だ。

そんな山口プロデューサーへのインタビューを通じて、これまで手がけてきた作品の秘話や、ドラマ制作への思いをひも解いていく。

  • 『ハケンの品格』主演の篠原涼子 (C)NTV

    『ハケンの品格』主演の篠原涼子 (C)NTV

■ブレイクするまで起用し続けた篠原涼子

山口氏は、『ハケンの品格』主演の篠原涼子を、96年放送の『ナニワ金融道・2』でヒロインに抜てき。それ以降、『ギフト』、『きらきらひかる』(98年)、『危険な関係』(99年)、『カバチタレ!』(01年)と、主演でブレイクするまで極めて重要な役柄に起用し続けた。

「篠原さんに最初に会ったのはスペシャルドラマ『ナニワ金融道・2』。恋人の借金のために風俗に売られるという暗くなりかねない難役を、ナチュラルに演じ切ることのできる、明るく軽やかな魅力がありました」(山口氏、以下同)と振り返る。

山口氏がプロデュースする作品からブレイクのきっかけをつかんだのは、篠原だけではない。山下智久は『危険な関係』で、主演の豊川悦司と絡むキーパーソンの少年として登場したことをきっかけに、『カバチタレ!』、『ロング・ラブレター~漂流教室~』(02年)、『ランチの女王』(02年)と次々に山口作品へ出演し、役者としての人気と実力を開花させていった。

「山下くんは、ドラマデビューが私の作品(『危険な関係』)だったのですが、その頃から強烈なオーラがありました。山田(孝之)くんも『ロング・ラブレター~漂流教室~』などで一緒にキャスティングしたりして。当時は2人とも、お願いすればすぐ出てくれたんですが、だんだん偉くなってきて。まあうれしいことなんですが(笑)。山下くんも山田くんもタイプは全く違う役者なのですが、それぞれ絶対に伸びる、しかもすごく伸びるという確信を強く抱いていたと記憶しています」

■No.1コメディ監督との試行錯誤

俳優だけでなく、今やヒットメーカーとなった監督や脚本家も、山口作品で大きな飛躍のきっかけをつかんでいる。

映画『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』など、今や“コメディ作品”の大ヒットメーカーである武内英樹監督も「コメディのコツをつかんだ」と後に語っているのが『カバチタレ!』だ。

「武内監督は、私が知り合ったときはすでに何本も連ドラのチーフ監督をやっていました。『カバチタレ!』は常盤貴子さんと深津絵里さんが演じるヒロインを通して女性の友情や生き方をコミカルに描きつつ、生きていくための知識武装という社会的な要素もある、全く新しいタイプのドラマだったので、キャスティングも新しい試みをと、名古屋でモデルをやっていた香里奈さんを見つけてきてレギュラーで出てもらったり、女優としては全く新人だった山田優さんをゲストで起用したりしました。もちろん、篠原涼子さんにもお願いして主人公たちの強力なライバル役でご出演いただきました。

武内くんとも、撮影や仕上げで一緒にあれこれ試行錯誤しました。私の作品には、『ナニワ金融道』で始めた“連帯保証人”や“カタにはめる”といったセリフの中の専門用語をテロップやロールで画面に表示させてあえて親切に説明するという一種の“お家芸”があって、それは『カバチタレ!』に引き継がれ、さらに進んで『闇金ウシジマくん』シリーズでは“犯罪です。”という注意喚起のテロップをギャグかと思われるほど何回も出したり、逆に説明が要らないような言葉をあえてテロップで説明したりという遊びに興じていたわけです。

で、ある日『テルマエ・ロマエ』の1作目を映画館で普通に見ていたら、武内監督が温泉にワニが泳いでいるところに“ワニ”というテロップを出してるじゃないですか! だからすぐに電話で『武内! あれは専売特許だから断りなくやるなよ』って抗議したりした(笑)。それにしても明らかなワニが出てきて、そこにあえて“ワニ”とテロップを出す。そんなアホなことを全国300スクリーンで公開する映画で出す監督っていないですよね。でも、ああいうのはメジャーで、そういう規模で出すからこそ面白い。まさしく『カバチタレ!』の手法です(笑)

武内監督が今では『日本ナンバーワンのコメディが撮れる監督』という確固たる地位を築いて本当にうれしい。日本アカデミー賞の最優秀監督賞を獲ったのもまったく順当、当然としか言いようがない。本当は、武内監督は恋愛ものやシリアスなドラマも得意なので、ぜひまた一緒に仕事したいと思っています。

  • フジテレビの武内英樹氏(左)と松山博昭氏

あと、フジテレビ時代に一緒に仕事をした松山(博昭)監督(山口作品では『タブロイド』『アフリカの夜』や『危険な関係』ほかで演出補ののち、『ビギナー』で監督デビュー)も、映画『ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ』(10年)で大ヒットを飛ばしました。同じジャンルで、私が日本テレビに持ち込んで時間をかけてようやく実現した映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(09年)のほうが公開は早かったので面目は保てたけど、興行収入は少し『ライアーゲーム』が勝っていた(笑)

まあそんな感じで、それぞれ違った資質の才能ある監督たちと作品を残せたことは、光栄だったし、大きな財産だと思っています」