『キカイダー01』の後、吉川氏は千葉真一主演の大人向けアクションドラマ『ザ・ボディガード』(1974年)のプロデューサーを務める。しかし、この時期はすでにテレビドラマにおけるいくつかの「表現規制」が強まっていた。吉川氏のところにも各方面から「社会的地位の高い人物を悪役にしないでほしい」と注意されることが多くなり、ドラマ作りに難しさを感じていたのだという。

吉川氏の"ヒーロー"論のひとつに「悪がものすごく強く、悪い"巨悪"であればあるほど、ヒーローの魅力が際立つ」というものがあるが、大人向けドラマでは権力者や体制側の巨悪を考えるだけですぐNGとなってしまう。このような体験もあって、吉川氏は放送上の制約が比較的少ない「特撮ヒーロー、キャラクター作品」の世界で、純粋に「正義」「友情」「愛」といったテーマを追い求めることに魅力を感じるようになったそうだ。

吉川氏が『人造人間キカイダー』『キカイダー01』に続いてプロデューサーとなった「特撮ヒーロー作品」、それが『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)である。『キカイダー』と同じく、大ヒット作『仮面ライダー』の"対抗馬"を作るという目標を掲げて生み出された『ゴレンジャー』は、単体ヒーローの仮面ライダーに対する「集団(変身)ヒーロー」という、実写特撮ヒーローの世界では非常に画期的なアイデアを投入。カラフルなスーツに身を包んだ5人のヒーローが、それぞれの得意な技を活かしてチームワークで作戦を遂行する。

『ゴレンジャー』の企画を石ノ森章太郎氏と共に立ち上げたのは、『キカイダー』と同じく平山亨氏だが、平山氏による初期構想が「ひとりでも強いヒーローが、5人集まったらもっと強い」というものだったのに対して、吉川氏は「ひとりでは怪人に勝てないが、5人そろったとき初めて勝つことができる」という姿勢を貫き、第1話の撮影に臨んだという。これは吉川氏なりの「5人のヒーローをどのように魅力的に描くか」の回答であり、脚本の上原正三氏、監督の竹本弘一氏も吉川氏の方針に沿ったかたちでゴレンジャーのキャラクター像を築き上げた。

等身大の特撮ヒーロー作品から"暗さ"を意識的に失くした『ゴレンジャー』は、カラリとした陽性の雰囲気を重視して、軽快かつスリリングなスパイアクション風味を大きな魅力とした。ストーリー自体は極めて真面目な"スパイもの"であるにも関わらず、作品が持つ陽性の空気になじむかのように、石ノ森氏による黒十字軍の「仮面怪人」のデザインがどんどんコミカルになった結果、シリアスとギャグがいい配合で混在したユニークな「ゴレンジャー世界」が完成。各種メカニック(バリブルーン、バリドリーン、バリタンク、バリキキューンなど)の商品展開も非常に高い成績を上げ、以後の東映特撮作品でも「ヒーロー+巨大メカ」の組み合わせが定番化するようになった。

『秘密戦隊ゴレンジャー』は明朗な5人のヒーローキャラクターの魅力、矢島信男特撮監督の率いる「特撮研究所」による本格的なメカニック特撮の魅力、黒十字軍のユニークな仮面怪人の魅力、渡辺宙明氏によるパンチの効いたヒーロー音楽の魅力……など、複合的な魅力が子どもたちの心をつかみ、約2年間もの長期放送を成し遂げた。一方で、変身ブームの立役者となった『仮面ライダー』シリーズは5作目の『仮面ライダーストロンガー』(1975年)で惜しまれつつ4年9ヶ月もの歴史にいったん終止符が打たれた。それからの東映ヒーローは、『ゴレンジャー』のヒットに続けとばかり、「ヒーローの複数化」と「特撮メカニック」を打ち出す傾向が強くなっていく。『ゴレンジャー』の後番組として、ほぼ同じスタッフで製作された『ジャッカー電撃隊』(1977年)も、4人のサイボーグヒーローが悪と戦う集団ヒーロー作品に決まった。

トランプをモチーフとしたヒーローデザインが目をひく『ジャッカー電撃隊』は、吉川氏が本来得意としていた"大人向け"ハードボイルドアクションドラマのテイストが込められ、変身ヒーロー作品というジャンルの中ではかなり"異質"で渋いストーリーが展開した。ジャッカーになった4人の若者たちはみなそれぞれ深刻な事情を胸の内に秘めており、二度と普通の人間に戻れない悲しみを背負いながら邪悪な犯罪組織クライムとの命がけの戦いに挑む。クライムが毎回繰り広げる悪事も、前半では徹底的に現金強奪にこだわるなど、リアルな犯罪ドラマの趣を持たせるよう努めていた。

このように暗くて重いドラマ作りは、よりクオリティの高いヒーロードラマやハイセンスなアクションを求める子どもたちの欲求を満たすのに十分ではあったが、『ゴレンジャー』の明るい空気に親しんだ子どもたちからの拒絶も同時にあり、視聴率的にはやや苦戦傾向にあった。そこで"テコ入れ"として作品のムードを徐々に明るい方向に変え、第23話からはアオレンジャー/新命明役で人気を博した宮内洋を「行動隊長・番場壮吉/ビッグワン」として華々しく登場させた。オープニング、エンディング、アイキャッチにぜんぶビッグワンを入れ込んだ大プッシュぶりはものすごく、渋い犯罪ドラマを地道に行っていた前半とは印象がガラッと変わってしまった。結果的に、シリアスな前半を愛するファン、ビッグワン登場で陽性に変化した後半のファンに分かれてしまった感のある『ジャッカー』だが、今となってはこの二面性をこよなく愛するファンもたくさんおり、実に味わい深く噛み応えのあるシリーズとして存在感を有している。

『ジャッカー電撃隊』を終えたスタッフは、ほぼそのままの布陣で後番組の『透明ドリちゃん』(1978年)の製作にあたることになった。一般に"男の子向け"といわれる特撮ヒーロー作品とはガラリと方向を変え、"女の子"を中心としたファミリー層に向けた特撮ファンタジードラマが志向された『ドリちゃん』では、原作者・石ノ森章太郎のデザインによるユニークな妖精たちのキャラクター性や、ミドリ役の柿崎澄子を支えるベテラン俳優勢の人間味あふれる確かな演技、上原正三氏、長坂秀佳氏らによる少女の精神的成長を育むドラマチックなストーリーなどが大きな魅力となり、着実に人気を高めた。吉川氏も本作について「半年間と短かったが、これは後番組『宇宙からのメッセージ 銀河大戦』(1978年)を始めるまでの"つなぎ"だったため。内容的にはとてもよくできている作品だった」と、その内容にかなりの自信があったと述懐している。