テストその1:パフォーマンス比較
さて、まずは従来の3000Xシリーズが3000XTシリーズでどれだけ性能が上がったか(or変わらないか)を確認してみたい。基本的にあまり色々やっても差が出そうにないので、今回はテストを絞って実施してみた。
テスト環境は表1に示す通りである。今回マザーボードは、AMDから借用したASRocK X570 Taichiを利用している。それ以外はほぼいつも通りの環境である。以下のグラフでの表記は
3600X :Ryzen 5 3600X
3600XT:Ryzen 5 3600XT
3800X :Ryzen 7 3800X
3800XT:Ryzen 7 3800XT
3900X :Ryzen 9 3900X
3900XT:Ryzen 9 3900XT
となっている。
■表1 | |
---|---|
CPU | Ryzen 5 3600X Ryzen 5 3600XT Ryzen 7 3800X Ryzen 7 3800XT Ryzen 9 3900X Ryzen 9 3900XT |
CPU Cooler | Corsair Hydro Series H60 |
M/B | ASRock X570 Taichi P1.80 AGESA Combo-AM4 1.0.0.3 |
Memory | CFD W4U3200CM-16G(DDR4-3200 CL22 16GB×2) |
Video | Nvidia GeForce RTX 2080 Super Reference GeForce Driver 446.14 WHQL DCH |
Storage | Intel SSD 660p 512GB(M.2/PCIe 3.0 x4) (Boot) WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data) |
OS | Windows 10 Pro 日本語版 Version 1909 Build 18363.900 |
◆PCMark 10 v2.1.2177(グラフ1~6)
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
ということでまずはこちらから。Overall(グラフ1)を見て頂くと判るが、どれも「ほんのちょっと性能は上がっているが、大きくは変わらない」レベルである。一応このテスト、3回行った平均値なので、誤差の範囲を超える程度には差があるのだが、ただことさらに大きく性能向上とは言いにくい程度の差でしかない。
Test Groupの結果(グラフ2)もこれを裏付けている感じ。強いて言うなら、Turboが4.5GGHz→4.7GHzと引き上げ幅の大きいRyzen 7 3800XTはそれでも2%程度の向上が見られるが、全体としては1%内外の差でしかない。個々のTest Groupの詳細(グラフ3~5)を見ると、比較的明確に性能差があるのはグラフ3のAppStartupにおけるRyzen 7 3800XとRyzen 7 3800XTの差(3%強の向上)程度で、あとは大きな差とはいいにくい。
意外なのはApplication Detail(グラフ6)におけるExcelで、やっぱりRyzen 7 3800XTが妙に伸びている(Ryzen 7 3800X比で6%弱の向上)が、逆に言えばこの程度でしかない。他の組み合わせに関して言えば、「大きな差とは言えない」で終わりである。
◆CineBench R20(グラフ7)
Maxon
https://www.maxon.net/cbr20dl_ms
次は定番CineBench R20。御覧の通り(グラフ7)の結果である。やはりここでもRyzen 7 3800XTがOne CPUで517→538と大躍進を見せているが、あとは概ね「やや性能向上」という程度に留まっている。
◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.15.17(グラフ8)
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
いつもと同じく、VP9の4K動画をHEVCに変換する速度の比較だが、今回は同時4Streamの場合のみを測定した。結果はグラフ8の通り。どのケースでも0.1~0.3fpsほど高速化されている事が判る。これ、フレームレートだと感覚的に判りにくいので所要時間で示すと
Ryzen 5 3600X→Ryzen 5 3600XT:5230秒→5202秒
Ryzen 7 3800X→Ryzen 7 3800XT:3933秒→3855秒
Ryzen 9 3900X→Ryzen 9 3900XT:2792秒→2738秒
ということで、30~40秒ほど処理時間が短縮されている。一番短いRyzen 9 3900XTですら、45分以上の処理時間が必要で、これを40秒ほど短縮できたというのは、やっぱり大きな差とは言えない様に思う。
◆Sandra 20/20 2020.6.30.45(グラフ9)
SiSoftware
https://www.sisoftware.co.uk/
Sandraは今回消費電力測定に絡んで、DhrystoneとWhetstoneのみを測定した。結果はグラフ9の通りで、確かにXTシリーズで性能は向上しているのだが、それが大きな性能差か?と言われると、ここでも「ほんのちょっと」という方が実情に合っている様に思う。
◆3DMark v2.12.6949(グラフ10~12)
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
正直やる前から、それほど結果に差が出ないだろうとは思ったが、一応確認のために。ということでグラフ10がOverallだが、まぁ予想通りというか。なぜかSkyDiverでちょっと数値がバラつくが、大きなのはそのあたりだけである。graphics Test(グラフ11)で、なぜかRyzen 5 3600Xの値が妙に低いのが、グラフ10でバラついた要因の様で、逆にそれ以外のテストでは殆ど差が無い。一番性能差が出そうなのが、Physics/CPU Test(グラフ12)であるが、一番差が大きく出たのがFireStrikeにおけるRyzen 9 3900XとRyzen 9 3900XTの2%強、というあたりはやはり大きな差とは言いにくいと思う。
◆Metro Exodus(グラフ13~14)
4A Games
https://www.metrothegame.com/
Game Benchmarkは2つだけ行った。まずはMetro Exodus。設定方法はこちらのUltraプリセットだが、解像度は2K(1920×1080pixel)のみで実施している。これ以上の解像度で行っても、性能差が大きくなるとは思えないためだ。
まずグラフ13が最小/平均/最大フレームレートであるが、もう御覧の通り差が無い。フレームレート変動(グラフ14)を見ても、20秒付近でほんのわずかに乱れてるかな? という程度で、あとは殆ど同一グラフである。このグラフから言える事は「Metro Exodusを2Kで行う分には、どのCPUでもあまり差が無い」となるだろう。
◆Shadow of the Tomb Raider(グラフ15~16)
SQUARE ENIX
https://tombraider.square-enix-games.com/en-us
設定方法はこちらで、QualityはHighestとした。解像度はこちらも2Kのみである。
グラフ15が最小/平均/最大フレームレートで、最小フレームレートは多少ばらつくもの、XシリーズとXTシリーズの間の違いは、このグラフから読み取るのは難しい。フレームレート変動も、120秒あたりからばらつくところでは多少差があると言えばあるが、そこまでの間に大きな違いは無いと考えて良いと思う。要するにMetro Exodusと同じ様に、「どのCPUでプレイしても恐らく差が出ない」という事になるかと思う。
◆消費電力測定(グラフ17~22)
パート1の最後は消費電力を。まずグラフ17がSandraのDhrystone/Whetstone、グラフ18がCineBench R20であるがAll CPUとOne CPUの両方を、グラフ19がTMPGEnc Mastering Works 7で4Streamエンコード時の先頭150秒間を、グラフ20が3DMarkのFireStrike Demoの実行時を、それぞれ測定したものである。
グラフ18のCineBenchについては、All CPU(全Threadでレンダリング)とOne CPU(1 Threadのみでレンダリング)のそれぞれの平均値を、同様にグラフ19のTMPGEnc Mastering Works 7では、先頭30秒弱のBoostが効いている時と、その後の定常状態に戻った時の夫々の平均消費電力をまとめたのがグラフ21、ここから無負荷時の消費電力との差を求めたのがグラフ22となる。
このグラフ22を見ていると、100~200MHz動作周波数を引き上げた時の消費電力の上がり方が明確に見える。ちょっと逆順になるが、そもそもTDP枠にゆとりが少ないRyzen 9 3900X/3900XTの場合、あまり消費電力を引き上げるゆとりが無い様で、特に全コア稼働中は殆ど消費電力が同じである。ところがRyzen 5/7では多少TDPにゆとりがある事もあってか、明確に消費電力が増えている。これは、Turboの動作周波数を100/200MHz引き上げたことで、より動作周波数が上がりやすくなった結果と思われる。勿論ピークには達していない(グラフ19で言えば、最初の20秒強が動作周波数のピークで、その後はピークより下回っている)が、それなりに消費電力が増えているというのは、それだけ動作周波数が上がっているという意味でもある。
このグラフ19は非常に判りやすく、30秒から先の定常状態は「全コアがBusyの状態」で、どのあたりでバランスするかを示している。先も書いたがRyzen 9だとTDP枠ぎりぎりのためか、Ryzen 9 3900XとRyzen 9 3900XTの消費電力はほぼ同じで、動作周波数もほぼ同じと思われる。ところがRyzen 7 3800XとRyzen 7 3800XTでは8.5W、Ryzen 5 3600XとRyzen 5 3600XTでは12.6Wもの差があり、これは明確に動作周波数が異なっている事を示している。悲しいのは、先のグラフ8で示される様に、この動作周波数の比が十分に性能には結び付いていない事だろうか?
表2と表3に、Dhrystone/Whetstoneにおける効率をまとめてみたが、動作周波数が明確に上がる(=消費電力も増える)Ryzen 5 3600XT/Ryzen 7 3800XTはRyzen 5 3600X/Ryzen 7 3800Xよりも効率を落としている。表4はTMPGEnc Mastering Works 7の場合で、グラフ19における最初の30秒のピークは無視して、その後の平均消費電力のままそれぞれの所要時間ぶん回してエンコードが完了したと仮定した場合、4本のVP9画像をHEVCにトランスコードするのにどれだけの電力量(W×hour)が必要かを算出したものだが、やはりRyzen 5 3600XT/Ryzen 7 3800XTは電力量が増えているのが判る。幸か不幸か、Ryzen 9 3900XTは、もうあまり動作周波数を上げる余地がないためもあってか、Dhrystone/WhetstoneにしてもTMPGEnc Mastering Works 7にしても若干効率が良くなっているのは面白いところだ。
■表2 | |||
---|---|---|---|
Dhrystone | 性能(GIPS) | 消費電力(W) | 効率(GIPS/W) |
Ryzen 5 3600X | 297.19 | 76.8 | 3.9 |
Ryzen 5 3600XT | 298.75 | 92.9 | 3.2 |
Ryzen 7 3800X | 400.18 | 106.0 | 3.8 |
Ryzen 7 3800XT | 405.58 | 111.2 | 3.6 |
Ryzen 9 3900X | 566.64 | 152.7 | 3.7 |
Ryzen 9 3900XT | 577.30 | 152.1 | 3.8 |
■表3 | |||
---|---|---|---|
Whetstone | 性能(GFLOPS) | 消費電力(W) | 効率(GFLOPS/W) |
Ryzen 5 3600X | 176.29 | 68.0 | 2.6 |
Ryzen 5 3600XT | 177.78 | 83.4 | 2.1 |
Ryzen 7 3800X | 236.83 | 92.5 | 2.6 |
Ryzen 7 3800XT | 241.24 | 98.3 | 2.5 |
Ryzen 9 3900X | 335.84 | 133.8 | 2.5 |
Ryzen 9 3900XT | 343.21 | 132.9 | 2.6 |
■表4 | |||
---|---|---|---|
TMPGEnc | 所要時間(sec) | 消費電力(W) | 消費電力量(Wh) |
Ryzen 5 3600X | 5230 | 154.6 | 224.6 |
Ryzen 5 3600XT | 5202 | 167.2 | 241.6 |
Ryzen 7 3800X | 3933 | 189.3 | 206.8 |
Ryzen 7 3800XT | 3855 | 197.8 | 211.8 |
Ryzen 9 3900X | 2792 | 242.6 | 188.1 |
Ryzen 9 3900XT | 2738 | 245.4 | 186.6 |