アニメーションによるウルトラマンという"独自性"を打ち出した『ザ★ウルトラマン』に続く待望の実写ウルトラマン。そのタイトルは、1980年という「時代の変わり目」を意識して『ウルトラマン80』に決められた。
『ザ★ウルトラマン』はSFアニメとして非常に魅力のある、優れた作品ではあったが、その一方で「(大幅に予算のかかる)実写ウルトラマンの復活は難しいのかな」と残念がる特撮ファンも少なからず存在した。しかし、そこは『レオ』終了後も『恐竜大戦争アイゼンボーグ』(1977年)や『スターウルフ』(1978年)『恐竜戦隊コセイドン』(1978年)などの特撮作品を作り続けてきた円谷プロ。作り手からの「また実写でウルトラマンを作りたい」という意欲は、決して消えてはいなかったのだ。
円谷プロとTBSは「80年代にふさわしいウルトラマン像」とは何か、を検討した結果「ウルトラマンの"原点"に戻る」ことと「熱き"ドラマ"の追求」の2つを軸に定めることにした。ヒーローであるウルトラマン80のデザインを初代ウルトラマンのイメージに近づけたのは、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』から円谷特撮の高いクオリティを担ってきた高野宏一特撮監督の「原点回帰」の思いからだという。そして「熱きドラマ」については、ウルトラマン80=矢的猛を中学校の理科教師に設定することで、登場する生徒たちと"直接的な対話"をさせたいという狙いがあった。
本作が企画された当時は、小・中学生の自殺や校内暴力、いじめなどが深刻な社会問題としてマスコミに取り上げられていた。こういった状況に真正面から向き合い、しっかりした「ドラマ」を作り上げることで、SF・特撮作品の視聴年齢層を引き上げたい、という狙いもあったようだ。中学教師と生徒のふれあい、というと、本作の半年前に放送されていたTBSドラマ『3年B組金八先生』(1979年)を連想してしまうが、「ウルトラマンが先生」というアイデアは『金八』以前からあたためられていたという。ちなみに『ウルトラマン80』の放送と同時期には『金八』の後番組として『1年B組新八先生』がスタートしている。
第1話「ウルトラマン先生」(脚本:阿井文瓶/監督:湯浅憲明/特撮監督:高野宏一)では、桜ヶ丘中学に赴任してきた新人教師・矢的猛とUGMオオヤマキャップの出会い、そして5年の沈黙を破って姿を現した怪獣(クレッセント)とウルトラマン80の激闘が描かれる。劇中で猛は、人間の醜い心、悪い心、汚れた気持ち、憎しみ、疑いなどが寄り集まって怪獣が生まれると言い、怪獣の出てくる根本を叩きつぶすつもりで教師の道を選んだとオオヤマに語った。最後にはオオヤマの強い要望で、放課後と休日に限ってUGM隊員となる猛だが、この時点では猛の主な活動の場はあくまでも「学校」であり、このまま育っていくと怪獣になってしまいそうな子どもたちと真剣に向き合うことを重んじていた。
第2話では「登校拒否」、第3話では「失恋」、第4話では「親子愛」といったテーマでドラマを作り、猛と生徒たちとの交流をメインとする一方で、現れる巨大怪獣とUGMメカの戦闘シーンや、怪獣とウルトラマン80のアクションという「特撮」の見せ場をたっぷりと盛り込んで、「特撮」と「ドラマ」の底上げという当面の使命を見事に果たした。何より特筆すべきは、それまでのウルトラマン像とはひと味違って、子どもたちと一緒に笑ったり怒ったり、時にはドジな失敗もする矢的猛の明朗なキャラクター性である。猛を演じた長谷川初範は後年のインタビューで、「フィルムに映っている矢的猛はほぼ自分そのまま。上からものを教えるのではなく、生徒と同じ目線に立つ先生を演じたかった」と述懐している。
大映映画『ガメラ』シリーズや国際放映・TBSの『コメットさん』(1978年/主演:大場久美子)などで知られる湯浅憲明監督もまた、矢的猛を「人間らしいウルトラマン」と捉え、努めて明るいキャラクターとして演出したという。特撮ファンの中には「ウルトラマンがなぜ学校の先生をやらなければならないのか」という戸惑いをもつ者がいなかったわけではないが、明るく陽気な「ウルトラマン先生と子どもたちの"熱きドラマ"」が毎回工夫に満ちた形で提供されるにつれ、これが『ウルトラマン80』という作品の"味わい"だとして、広く認められるようになった。