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この番組での有吉は、芸人たちのネタを見て、本当に幸せそうに笑うのが印象的だ。

「誰よりも楽しんでますし、楽しみに収録に来ていると思います。それに、有吉さんって『どんだけお笑い見てるんですか!』って驚くほど、普段から若手のネタを見てますし、生かし方を考えてくれます。だからこそ、出演者にも熱が生まれるんですよね。有吉さん以外に『○○の壁』という番組タイトルの似合う人が、なかなか思いつかないです」

そんな有吉の姿勢にならい、「僕らスタッフもなるべく匂いを消したいと思ってるんです」という。この番組は、近年のバラエティによくある、派手なCGデザインやツッコミのテロップなど、「過剰に面白くする編集することはしない」という演出方針。なるべく生身で見せることで、番組側から“ここが面白い”というポイントを提示せず、「見てくれる人の面白さの解釈の余地を広くしている」のだ。

地上波テレビは、いかに視聴者が“分かりやすく”見られるかを追求するのが定石だが、それには縛られない。例えば、有名人になりきってステージで歌を披露する「ご本人登場選手権」では、レギュラー初回で大久保佳代子が80年代に活躍した葛城ユキの歌を熱唱する。

「ゴールデンの間口を考えたとき、普通の番組なら『若い世代にも分かるものまねのほうがいいんじゃないですか?』って言いたくなるんですけど、そのカオスで分からない感じも含めて、テレビだと思うんですね。知らないけど、なんだかすごく面白い…そういう笑いがあっていいと思うんです」

■素足を噛まれて爆笑する佐藤栞里

このように、ゴールデンのロジックを次々に破壊していく『有吉の壁』だが、有吉は「下ネタはどうしても多めになるでしょうね」とも予告している。

これについては、「下ネタってひとくくりにできなくて、見ていて嫌な感じがしない“家族で見てもいい下ネタ”もあるじゃないですか。芸人さんが一生懸命考えてやってくれて、有吉さんが笑いにしてくれるんだったら、これは放送して大丈夫だという判断することを諦めちゃダメだと思うんです。そうやって、制作側が汗をかかないと、テレビが萎縮してしまうという思いもあります」。

この判断の上で大きな役割を果たすのが、アシスタントの佐藤栞里だ。特番時代では、“大きいドクターフィッシュ”と称して近づいてくるパンサー・尾形に対し、「せっかくだから」と言って自ら靴を脱ぎ、素足を噛まれながら爆笑していた。

「あれも、ちょっと狂気の沙汰ですよね(笑)。でも、彼女がそういう姿勢だから、芸人さんたちは『これは栞里ちゃんが引くかな…』と躊躇(ちゅうちょ)することなく、安心してネタをやれるんです」といい、そんな佐藤を「テレビ界にそういう女性タレントはほとんどいないから、結構奇跡のキャスティングだと思ってるんです」と評した。

「有吉さんは時に厳しく芸人さんを育てて、栞里ちゃんはとにかくみんなを楽しい気持ちにさせる。このコンビネーションはすごくいいですよね。長く続けてこられたのは、そこが大きいかもしれないです」と言うように、この“アメとムチ”が芸人たちを輝かせている。

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■今こそ笑いを提供してテレビにできることを

レギュラー化にあたっては、地上波での放送以外でも、動画配信を積極的に展開していく計画だ。放送終了後にはTVerで見逃し配信し、Huluでは「反省会」や「未公開場面」を解禁。さらに、YouTube「壁チャンネル」ではオリジナル動画を配信し、レギュラー第1弾ではシソンヌによるキャラクター「こうへいくんとゴンちゃん」のモーニングルーティンが予定されている。

「あらゆるところで『有吉の壁』を見られるようにして、お笑いがもっと日常にある生活になってくれたらいいなと思うんです。いま世の中の空気が沈んでいるからこそ、笑いを提供してテレビにできることもあると思うんです」と語る橋本氏。

「学生時代、テレビを見て笑ってるときに、隣の部屋から笑い声がしたら同じ番組を見てた…なんてこともありました。最近はそういうことがなくて寂しいじゃないですか。でも、今はTwitterもあるから、テレビはもう一度共通言語を作りやすいはずなんですよ。そういう盛り上がりをスタッフ全員で作っていけたらいいなと思いますね」と、笑いを通したライフスタイルの訴求も視野に入れている。

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●橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、『24時間テレビ41』では総合演出を務める。現在は『有吉の壁』のほか、『有吉ゼミ』『マツコ会議』『寝ないの?小山内三兄弟』などを担当。