矢野:訓練と言えば、宇宙飛行士訓練に水泳が必要とわかって、泳げるようになったんですよ! 金づちの私が「泳ぎを教えて下さい」と言ったら、コーチに「なぜ泳げるようになりたいの?」と聞かれて「宇宙に行きたいんです」と答えたんです。本当はぷっと笑いたかったかもしれないけれど「OK! じゃあ宇宙に行けるように頑張ろうね」と言ってくれました。
金井:素晴らしい! ダイビングはどうですか?
矢野:これからです。
金井:無重力状態でふわふわ浮く感覚は、ダイビングが一番近いと思います。
宇宙酔いの訓練は宇宙に行くための必須科目?
矢野:あのロシアのぐるぐる回る回転いすの訓練はやらなくていいですか? 見てるだけで吐きそうですが(笑)
金井:ロシアでは打ち上げ前に宇宙飛行士が必ずやる訓練ですね。あれはちょっとやってもいいかもしれません。
矢野:やるべきですか。
金井:あくまで体験でね。それから打ち上げや帰還の時に、加速度(G)がかかるので体験しておくといいですね。体重の2~3倍近くの力がぐーっと体にかかるのですが、その時に行う特殊な呼吸法があるんです。足に力を入れてお腹で息をする。それは旅行客でも練習する必要はあると思います。
あとは宇宙船でもしトラブルがあった場合に、どう避難するか、ISS(国際宇宙ステーション)のちょっと特殊なトイレをどう使うか。無重力飛行は地上でも体験できるし、ダイビングなどで身体がふわふわ浮くところで、どうやって身体のバランスを取るかという感覚を体験しておけばいいのではないでしょうか。人間の身体自体は無重力環境には慣れますので、何も訓練しなくても寝られるし、食べられます。
宇宙旅行でも求められる宇宙に行くための心得
矢野:フィジカル(身体)の面ではそうかもしれませんが、感情面はどうですか? 人とうまくやっていくことを元々できている人であっても、閉鎖空間でどうふるまうかとか。やっぱり宇宙飛行士の皆さんと話をしていても、結局は人だと感じます。人間が関与する行為ならば、つまるところその人の言動や、どういう人間であるかに集約されていくと思いました。
例えば、すごいお金持ちが宇宙旅行に申し込んで、加速度の訓練ぐらいは受けたとしても、「え、ここテレビないの~?」とか「もう帰りたいわ、早く帰してちょうだい」とかわがままを宇宙に持ち込んでも困るでしょうし、「それはできないんですよ」と言われたときに「どういうことよ!」と違う意見に対して攻撃をする方がいるかもしれないと思うんです。そういうメンタル面の訓練って必要ないですか?
金井:これまでロシアの宇宙船のシートを買って宇宙に行った大金持ちの方々はいます。彼らは宇宙旅行が一般化される前に行った人たちなので、エクスプローラー(探検者)であり、宇宙飛行士。宇宙飛行士と同等の厳しい訓練をさせられましたが、「自分は宇宙に行きたいんだ、厳しい訓練をやるんだ」と乗り越えたために、トラブルはありませんでした。
でも、宇宙がもっと一般的になると、逆に心理的トラブルが表面化してくるかもしれませんね。ブートキャンプじゃないけど、きつめの訓練をコースの中に入れて、「乗り越えた人だけが宇宙に行けるんだ」とあえてハードルを設けるのもありかもしれない(笑)
矢野:なるほど。リタイアしたお金持ちが高額の南極旅行に行って、ペンギンに触ってはいけないという決まりを無視したり、挙句の果てに「寒い」と文句を言ったりする様子を居合わせた人に聞いたのですが、その流れで宇宙に行ったら大変だなと思って。
金井:心理学的な選別は、宇宙旅行だからこそ大事になるかもしれませんね。