――昨今、日本でも新型コロナウイルスの影響が出てきています。日用品や食料品の買いだめが発生するなど、パニックの様相もありますが、この番組を含め様々な国に行かれた経験のある上出さんは、現状(※3月中旬取材)をどう捉えられていますか?

まず「これは新型コロナウイルスのせいなんだ」ということをジャッジできるって、すごくレベルの高いことといいますか。たぶんケニアのゴミ山に行って体調崩したら、「これはコロナですね」とはならずに死んでいくだけなんですよ。そういう意味では、騒げるということもひとつの成熟の結果のようにも思います。

――認知できるということ自体が。

そうです。今、日本はかなり混乱しているじゃないですか。実際何が起きていて、国としてどうすることが正解なのか、いろんな説が言われていますよね。でもこの書籍版を読むと、今の日本で起こっていることを、改めてもう一度考えられると思うんですよ。

しかも、この本に収録されているリベリアのエピソードでは、エボラ出血熱の話も出てくるんですよね。西アフリカでアウトブレイクが起こって、わずかな期間でめちゃくちゃ人が死んだ。そこで何が起こってなぜそんなひどいことになったのかが手に取るようにわかる言葉を、たくさん聞いていたんです。

――その中で語られていたのが、陰謀論でした。

はい。アフリカの貧国で大きな疫病が流行ったとき、「これは西洋の陰謀なんだ」「化学兵器なんだ」という説が起こるのは致し方ないなと、やっぱり話を聞いて思いました。虐げられたりウソをつかれてきた経験があったから。でも今の日本でも…そこまでひどい陰謀論はないですけど、ひどい疑心暗鬼と責任の所在を求める動きがあって。これ、一緒なんですよ。

■災厄の根源にある“被害者意識”

――他にも共通点を感じる部分はありますか?

僕は社会学者でもなんでもないのでアレですけど、“被害者意識”ということが、世の中のいろんな災厄の根源にあるように感じました。それは個人レベルでもそうだと思うんですけど…書籍版の中でも“被害者意識”というのは結構通底しているというか、誰もが「自分が被害者だ」と思った結果の行動が、何かを招いていることがあって。カルトの話はものすごくそれも大きいと思うし、台湾でマフィアの話を聞いても「自分は被害者だ」と言うし。誰に聞いてもそのロジックの出発点は「自分が被害を受けた」という意識なんですよね。

これは日本での、特定の国に向けてのヘイトも全部そうだと思います。だから、今の日本で起こっているいろんなことの根源にある心の動きって、それこそこういう“異世界”で起こっていることを見ても「一緒だな」と思うんです。そうすると、日本で起こっていることも、ちょっと意外な角度から見えてくることがあるんです。こっちはその見え方がよりビビッドなだけで、出発点は一緒だなと思うことは結構ありますね。

――映像では黒人の方々が出てきたり街並みを見たりするので、ビジュアルから異世界感を強く覚えますけど、書籍だとそれとはまた違う距離感になりますよね。

たしかにそうかも。ビジュアルの差異がなくなってると、書籍のほうが「これは同じだな」と気づきやすいかもしれないです。そういう意味では、僭越極まりないけど社会学的な意味合いとか文化人類学的な面もあるかもしれない。

――世界でいちばん危険なところまで行った、フィールドワークというか。

ホントですよね。文化人類学者の先生とか、どう思うんだろう? 学者の方々から見たら全然浅いとは思うんですけど、貴重な資料にはなるかもしれないですよね。「そんなところにそういう人の生活があるんだ」っていう。

■「Are you happy?」上出氏の答えは…

――最後にひとつお聞きしたいのですが、番組中では取材の最後に「Are you happy?」と聞かれてるじゃないですか。上出さんが今そう聞かれたら、どう答えますか?

あー…それ、考えたことなかったですね。でも、幸せ……ですね。妻の話題のときにもお話ししましたけれども、「明日死んでもいいように」と思って生きようとしているんですよ。それを頭に置いて生きているとすごく充実して、時間が全然足りなくて。そうすればするほど、死にたくないぐらい楽しくなっていくんですよね。どんどん幸せになっていく。

だから、死にたくないんですよ。全然。行きたい場所もあるし、読みたいものも見たいものいっぱいあって、時間がいくらあっても足りない。だから、今は幸せです。

●上出遼平
1989年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、11年にテレビ東京入社。『ありえへん∞世界』『世界ナゼそこに?日本人』などを担当し、現在は『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』などでディレクター、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の演出・プロデューサー。