“ヤバい奴らのヤバい飯を通してヤバい世界のリアルを見る”をテーマにした、異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)を企画し、取材・編集まですべてを手がけたテレビ東京の上出遼平ディレクターが、“完全版”とも言える書籍を上梓した。
そんな上出氏へのインタビューでは、書籍にも盛り込まれた取材の具体的な裏話はもちろん、書籍版購入特典となった未公開映像や、4月1日(24:12~24:58)に放送される最新作の話題も登場。さらに、この一冊を通して見えてくる、今の日本人や私たちを取り巻く問題との共通点についても語ってくれた――。
■一歩踏み越えた先に待つ“奇跡”
――これまで訪れられた場所での出会いについてお聞きしたいのですが、ケニアのゴミ山で出会ったジョセフは…
あれはホントに…出会いの瞬間、僕はものすごく興奮しました。これはちょっと自慢ですけど、たぶんあそこまで行く人はいないと思うんです。普通は初日にゴミ山に入っていった段階で、諦めていると思うんですよね。ピーターっていう門番みたいなおじちゃんにも出会えたし、誰もが「奥に人が住んでいるかどうかはわからない」と言っていた。なのに翌朝からもう1回、今度はもっと奥へ行こうとしたというのは、ちょっと気が触れてると思います(笑)
――初日だけでも、成立はしていましたからね。
そうですね、多少は。でもピーターが住んでいたのは、本当に入り口。なんだか、もっと奥に何かがある気がしたんですよ。事前にいろんな外国のニュースを見てもそこまでの話は全然なかったので、あれは本当にかなり奇跡的でしたね。だって、インターネット探したって絶対出てこないじゃないですか。そういう意味であのロケでは、踏み込んでいくということの意義をかなり強く感じました。その前に、リベリアの墓場に入っていった結果ラフテーという元少女兵の女の子と出会えた経験が、僕の中にあったことも大きかったかもしれません。
――その経験は、どのように作用したのでしょう?
「普通はここに入らないようにするよね」と思ったときは、行ってみるんです。僕がそう思うということは、誰も入ってないだろうから。そうするとそこには、例えばゴミ山ならばそこに住んでるピーターでさえも知らない世界があって。その判断をその場その場でできたということは、胸を張れる部分かもしれない。あと、ジョセフと過ごしている時に僕、1回泣いたんです。
――というと?
僕がジョセフにくっついていく中で、一緒にゴミ収集車の荷台に乗って街を回っていたときに、1回僕、本当に涙流れたんですよ。それは本にも少し書いてあるんですけど、ジョセフがゴミを浴びながら自分が売るためのプラスチックを集めているところを見たら、カメラを向けてられなくなっちゃった瞬間があった。
番組ではそういう僕の感情が強く動いているところは邪魔なので切っているんですけど、これを読んでもらえれば、なぜ僕があのときジョセフに対してカメラを向けられなくなったのか、分かってもらえると思うんです。そういうところを一緒に感じてもらえたら、ものすごく深い旅になるはずです。書いているときも、泣きましたからね。
■滑稽な奇跡とユーモアをまぶした筆致
――その一方で、クスッとできる部分もありました。まず目次で章立ての“いきなり組長”を見たときから、ズルいなと思って(笑)
あはは(笑)。台湾のマフィアのところですね。でも、笑えるところって稀(まれ)じゃないですか?
――タッチ自体も全体的に読みやすかったですし、他にもリベリアのハスキーボイスのドライバーを“若天龍”と呼んでいたのもユニークでした。
お恥ずかしい…(笑)。ちょっと出ちゃいましたね。僕の中の癖みたいなところが(笑)。ただ、番組内でも章タイトルみたいなものはエンタテイメント化しようとしているんですよ。
――たとえば「闇食堂の暗闇定食」のような、特徴的な飯の名前とか。
はい。やっぱりこれ、真面目に書いたら相当ハードな内容なんです。でも行っているのは僕みたいな人間だし、実際笑いながら進めていっている部分もある。イゴールっていうコーディネーターが雪山の穴にハマってみんなで笑ったりもしたし…まぁ、言い方ですけどね。“いきなり組長”も実際にそうだったんで。
――まさに、諦めかけていたら突然会えることになったわけですからね(笑)
起こっていることがトゥーマッチで極端なときって、結構コミカルじゃないですか。そこがもしかしたら、クスッとできるポイントになっているかもしれないですね。
――リベリアでラフテーに出会ったときも、最初誰もが豚肉のことを思い浮かべたでしょうけど、本を読むと「やっぱり上出さんも思ってたんだ」と思いました。
いや、びっくりですよ。グルメリポートの番組で「ついに主人公だ!」と思った人が「ラフテーです」っていうから、なんだか童話の世界に迷い込んだような気がして。奇跡ですよね。滑稽な奇跡が、結構起こっているんです。