ある製品のインターフェイスがApple製品全体に広がる

Mac以外の製品における近年のインターフェイスも見てみよう。というのも、AppleはiPhoneなどの主力製品で用いたインターフェイスを、他の製品にも展開した経緯があったからだ。

Touch IDはiPhone 5sでまず採用され、その後iPad、MacBook Pro、MacBook Airへと広がった。指紋認証の後継となるFace IDは、2017年のiPhone Xで採用され、翌年はiPad Proにも搭載された。

  • おなじみのTouch ID

圧力を検出してクリックの感触を返す仕組みは、MacBookシリーズ内蔵のトラックパッド、Mac向けの外付けトラックパッドのMagic TrackPad 2、iPhoneの3D Touch、Apple Watchに採用された。ただし、iPhoneの3D Touchは、圧力センサーを省いた2018年登場のiPhone XRにならって、2019年モデルではすべての機種で、長押しを押し込みと認識するHaptic Touchに置き換えられた。

もう1つのインターフェイスとしてはApple Pencilがある。1024段階の筆圧検出と、登場当初は20ms、iPadOS 13以降では9msの反応速度を誇るペンデバイスで、2018年登場のiPad Proに対応する第2世代では、ワイヤレス充電とともに、ペンをタップすることでツールを切り替えるなどの機能を備えた。例えば、鉛筆と消しゴムを画面上のツールパレットへのタップなしで切り替えられるなど、ペンでの作業効率を高めている。

そして、よりソフトウエア的な側面が強いのが、音声アシスタントのSiriと拡張現実(AR)だ。

SiriはiPhone 4Sで採用され、その後iPad、Apple Watch、Apple TVとともにMacでも対応を果たした。H1チップ搭載のAirPodsでは、「Hey Siri」と呼びかけるだけで利用できるよう工夫されている。

ARは、物理的なインターフェイスというよりは、カメラを通して見た現実世界に情報や操作のトリガーとなるものを置く方法で、自分もしくは対象となる人と物体に対するアクションと、視覚的なフィードバックで構成される。

新しいインターフェイスのMacへの実装

こうしたAppleにとっての新しいインターフェイスのなかで、今後さまざまなデバイスに実装される可能性が高いのは、Face IDだろう。すでに、iPhoneに続いてiPad Proにも搭載されたTureDepthカメラは、通常のカメラに加えて赤外線カメラを備え、赤外線のドットプロジェクタによって照射された人の顔を認識、モデル化して顔認証を行う仕組みだ。

このTureDepthカメラ自体はモジュールとして完成されているため、既存のFaceTime HDカメラを置き換えることで、ディスプレイ一体型MacであるiMacシリーズ、MacBookシリーズにも比較的容易に実装できる。

  • iPhoneに搭載されているTureDepthカメラ。これだけのカメラ類がモジュール化されて詰め込まれている

しかし、Mac miniや、Macラインナップの最高峰であるMac Proへの実装は現実的ではない。Face IDのMacへの実装でもう1つ必要となるのが、機械学習コアであるニューラルエンジンだ。現在、Macへの実装が進んでいるT2チップにはニューラルエンジンがなく、顔認識を高速でこなすためのプロセッサとしては力不足だ。

もちろん、MacにはIntelプロセッサやグラフィックスチップも搭載されるが、Touch IDの処理がそうであったように、セキュリティに関わる個人データとその処理を、コンピュータの処理から分離する実装方法を考えると、やはりTシリーズのチップにニューラルコアが備わり、Intelチップとは独立してFace IDを実現する方法を採るはずだ。