◆RMMT 1.1(グラフ41~42)
Rightmark.org
http://cpu.rightmark.org/products/rmma.shtml
結構差が出そうなのがRMMTであり、事実なかなか楽しい結果になった。
まずRead(グラフ41)を見ると、案外にCore i9-10980XEの成績が宜しくない。実際3 Threadあたりまでは、Ryzen Threadripper 3970Xはおろか、Ryzen 9 3900Xにも劣るスコアでしかないからだ。逆にRyzen Threadripper 3970Xは、2 ThreadまではRyzen 9と同等で、そこからの伸びがすごい。最終的に8ThreadになるとRyzen Threadripper 3970X、Core i9-10980XEともに80GB/sec近い帯域になるが、従来だとIntelの方が早くピークに達する感じだったのが、今はAMDの方が先にピークに達する傾向になっており、Zen 2アーキテクチャでは随分メモリアクセスが改善されたように感じられる。
一方のWrite(グラフ42)は? というと、これはもうSDRAMの特性上メモリ書き込みがボトルネックになるのは避けられず、それもあってほぼ3 ThreadあたりでCore i9-10980XE、とRyzen Threadripper 3970Xともに上限に近く、ここからゆっくりピーク(6 Threadあたり)に到達する格好だ。
ちなみに帯域の最大値はRyzen Threadripper 3970Xの方がやや高いが、これはアーキテクチャの問題というよりもメモリの速度及びLatencyの違いという気はする。その意味ではCore i9-10980XEもOC動作させればRyzen Threadripper 3970Xと同等の書き込み帯域になるのではないかと思う。
◆消費電力(グラフ43~50)
最後に消費電力である。Sandra 20/20のArithmetic Benchmarkがグラフ43、CineBench R20のMPがグラフ44、TMPGEnc Mastering Worksで4streamのエンコードを行った際の最初の150秒間がグラフ45、3DMark Firestrike Demoがグラフ46、それとFarCry New Downを2Kで行った際のものがグラフ47となる。
まずSandraを見ると、Ryzen Threadripperの消費電力は圧倒的で、400W超え状態であり、Core i9-10980XE(こちらも350W近い)が省電力に見えてしまうというおまけつきである。ところで、(これはRyzen 9 3900X/3950Xも同じだが)DhrystoneとWhetstoneで殆ど消費電力が変わらないのは、やはりZen 2でFPUが256bit化した分、消費電力が増えたものと思われる。
CineBench(グラフ44)では、Core i9-10980XEの消費電力の高さと、ピーク時間の短さが特徴的である。こちらは後で効率を計算してみる事にしたい。TMPGEnc Mastering Works 7(グラフ45)では、やはりRyzen Threadripper 3970Xが圧倒的に大きな消費電力ではあるのだが、グラフ8で示したように性能差も圧倒的であって、逆にCore i9-10980XEがあまり効率が良さそうに見えない。こちらも後で効率を算出してみたい。
3DMark FireStrike Demo(グラフ46)では、Ryzen Threadripper 3970Xと他との消費電力差が縮まっているのが判る。要するにCPU処理がそれほど多くないから、ということであろう。これはFar Cry New Dawn(グラフ47)も同じだが、消費電力の傾向がRyzen Threadripper 3970Xとその他で全く異なっているあたり、何かCPU側で処理が空回りしているような気がしなくもない。
さてグラフ48がそれぞれの処理中の平均消費電力をまとめたもの、グラフ49が待機状態との消費電力の差である。この数字だけ見ると、Ryzen Threadripper 3970Xがすさまじい、という結論になりかねないのだが、性能/消費電力比をちょっと見てみたい。まずはDhrystone/Whetstoneの結果を見てみたい。
ここでちょっとお詫び。こちらの記事で示したRyzen 9 3900X/3950XのDhrystone/Whetstoneのスコアだが、DhrystoneとWhetstoneの値を取り違えていた。正しくは以下の様になる。
Dhrysone (GIPS) |
Whetstone (GFLOPS) |
|
---|---|---|
R9 3900X | 557.00 | 337.10 |
R9 3950X | 754.59 | 458.00 |
TR 3970X | 1470.00 | 900.20 |
i9-10980XE | 797.66 | 459.16 |
この結果と消費電力差から効率をまとめたのがグラフ50。絶対的な効率が一番良いのがRyzen 9 3950Xで、これに僅差でRyzen Threadripper 3970Xが続き、Ryzen 9 3900Xはやや劣るものの、Core i9-10980XEよりは優れているという結果になった。やはりTSMCの7nmは効率が良い、という結果を改めて示したことになる。
次にCineBench R20。ピーク時の電力量(消費電力×経過時間)を計算してみると
Ryzen 9 3900X : 6300.0W・sec
Ryzen 9 3950X : 4515.0W・sec
Ryzen Threadripper 3970X : 4890.0W・sec
Core i9-10980XE : 8063.1W・sec
となる。スコアもさることながら、Ryzen 9 3950XやRyzen Threadripper 3970Xの効率の良さはやはりCore i9-10980XEの追従を許さない、として良いだろう。
最後にTMPGEnc Mastering Works 7の結果から、消費電力当たりのフレームレートを。やはり一番効率が良いのはRyzen 9 3950Xであった。意外にここではCore i9-10980XEも健闘しているが、それでもRyzen Threadripper 3970Xには及ばない程度である。
Ryzen 9 3900X : 0.102 FPS/W
Ryzen 9 3950X : 0.133 FPS/W
Ryzen Threadripper 3970X : 0.117 FPS/W
Core i9-10980XE : 0.109 FPS/W
◆考察
今回はワークステーション系は無しで、あくまでもOfficeとかGamingを中心としたコンシューマワークロードであったが、ここから言える事は
- 価格を無視すればCore i9-10980XEも普通に使える。ただ性能/価格比で言えばRyzen 9 3950Xの方が良いと思えるし、ものによってはRyzen 9 3900Xと同等レベルの性能というケースもあるので、今回のテストを見る限りでは敢えてCore i9-10980XEを選ぶ積極的な理由には乏しいと思える。消費電力がRyzen 9 3900X/3950Xに比べて高めなのもネガティブポイント。
- Ryzen Threadripper 3970Xは、かつてのRyzen Threadripper 2970WX/2990WXのじゃじゃ馬ぶりが嘘のように、普通に使える。事実Far Cry New Dawn以外は、Windows 10の標準ドライバのまま問題なく動作した。ことGamingに関して言えば、Ryzen 9 3900X/3950Xに対するアドバンテージは皆無なので、ここで選ぶ意味はないと思うが、エンコーダとか写真の現像などではそのパワーは絶大なものがある。ただし消費電力はその分多くなる。待機時は100W程度で済むが、一度動き始めると400W台の消費電力がザラであり、なので電気代は高めになる。その意味ではコンシューマ向けとは言い難いと改めて再確認できた格好だ。
というあたりだろうか。もう少しRyzen Threadripper 3970Xには熟成が必要かもしれないが、とりあえずは非常に良い製品に仕上がった格好だ。一方のCore i9-10980XEは今のところアドバンテージが乏しい感じで、この後のWorkstation Workloadでどこまで挽回できるか、という感じになっている。
ちなみに完成版ではRyzen Threadripper 3960Xの他、「可能なら」Core-Xの下位モデルも追加したいと考えている。乞うご期待。