■ユーモアで抗うこと
――今の興味は何ですか?
日常生活の中でまだ誰も発掘してないところを見つけないといけないと思いますね。例えば、街中のチェーン店にでかでかとコピーが書かれてるんですけど、あまりにもストレートなコピーだったりすると、人間の浅はかさ、品のなさみたいなものがモロに出ているなと。それにネットの人たちが簡単に動かされることとかもコントっぽいなと思って気になっています。
――陳腐でストレートなメッセージに簡単に扇動されると、負けたような気になりますよね。
我々に残されたものは、ユーモアでそれに抗うことかなと。
――ただ、何か思うのは、昔は冷笑的にそういうものを面白がっていたけど、今って、そういうのとも違うじゃないですか。だからこそ、抗わないとのみこまれてしまう、みたいな。
今ってそういう力が大きすぎるんですかね。確かに、今後は政治的なことをやりたいと思っていて。
――あいちトリエンナーレでも公演をされていましたが、場所がらもあるけれど、そういうものは感じました。
ドイツの写真家のヴォルフガング・ティルマンスという人の写真展を見たら普通に政治的なことを言っていていいなと思って。何かやるときに、政治的な主張を入れるのはカッコ悪いことではないなと思ったので。あと、 Twitterを見ても、そういう話題が増えて、自分の脳にもそれが増えてきたなと。ただ、主張したい気持ちが勝ちすぎると、見てられないしダサくなるというのはあるでしょうね。そこを制作のスタッフからは心配されます。逆に、「私は中立です」っていう人がなぜか保守的であったりすることもあったりして。そういうことも気になりますね。
――今後は、何かもっと多くの人に見てもらいたいとか、何か長編で映像作品を撮りたいとか、書きたいということはありますか?
そういう思いは実は全部あるんですけど、単純にデカい美術とか、くだらないデカいものを使いたいので、大きくしていきたいとは思いますね。コントに関しても、ものすごく考えて書いてるし、長編とかもぜんぜんできるのになと。不満ばっかり言ってます(笑)。
――デイリーポータルZで書いていたことは、コントにつながっていますか?
そうですね。地元の友達との間でしかわからなかった笑いが、デイリーポータルZに来て、「このガラパゴス的に発展した世界を分かってくれる人がこんなにいたんだ」と思いました。それと、何度も出させてもらっている「テアトロコント」というイベントも、デイリーの記事を見て声をかけてもらえたし、1年に1回のライブを突然始めたのにも関わらず、集客の面でも最初からあまり心配がなかったです。
――内容の面ではどうですか?
デイリーの記事は、気になることをテーマに書いたり撮ったりしてるんですけど、要素分解をするということはいつもやっています。それはコントでも同じですね。例えば、さっき言ったように、チェーン店の変なコピーに関しても、そこを違う要素に変えたら面白いかなって。日高屋には、「ちょい飲み」っていう言葉がデカデカと書いているんですけど、ほかのコピーもデカくしたらどうかなって。
――発想として、デカい「ちょい飲み」みたいなおかしなものを集めて並べるということはあったと思うんですよ。でも、そこからまた一ひねりして考えてるんですね。
太鼓って普通はバチで叩いて音を出すと思うんですけど、ほかのもので叩くとどうなるかとか。条件を変えてみると、事実があぶりだされてそれが面白さになっていくのかなと。実験と同じ方法で記事もコントも作っているんだと思います。
■大北栄人
1980年生。2007年からwebメディア「デイリーポータルZ」で執筆を始め「してみよう!拾い食い」「リカちゃん人形をダンボールで作ると泣けます」「女性は大変だ!とか良いこと言わずに淡々とお化粧を体験する」などの記事が話題に。同サイトの動画コーナー「プープーテレビ」も担当している。2015年より「明日のアー」というコントユニットをはじめ、2017年には映像作品『Windows Updateは突然に』で第10回したまちコメディ映画祭in台東の短編コンペティション したまちコメディ大賞を受賞した。