――映画『ロバマン』拝見しましたが、バカバカしいまでのギャグとパロディがある中で、すこしホロリとさせるハートウォーミングな要素も盛り込まれ、とても後口の良い映画だと思いました。
それはもう、河崎監督の狙いがちゃんとあったからだと思います。68歳のおじさんが、今まで出せなかった勇気をちょっとだけ出したら、人生が少し変わったという……素敵なストーリーになっているんですよね。
――吉村がロバマンの力を手に入れてからは本当にハチャメチャで、身近な人々の悪意から社会的巨悪まで一緒くたにしてロバマンがとにかく殴りまくるという展開が笑いを呼びました。その一方で、Twitterを思わせるWEBコミュニティでロバマン賛美とロバマン全否定の意見が分かれて論争が起きるなど、現代における情報社会を風刺するような場面もあって、笑いつつも考えさせられるところがあります。
あれはやりすぎなんじゃないの、とか非難を浴びたりして、「正義」の難しさというものをロバマンも感じたんじゃないですかね。悪はとにかく許さない! と言ってボコボコに殴るロバマンもいれば、川内康範先生の『月光仮面』は「憎まず、殺さず、赦しましょう」という博愛の精神だったり、やなせたかし先生の『アンパンマン』では自分の顔を空腹の子どもに差し出す自己犠牲の精神があるでしょう。正義というのは、簡単にはいかない、一筋縄じゃないんだよというのを、河崎監督が作品で示しているんです。
――月光仮面は『ロバマン』本編中にも登場してロバマンを元気づけますが、決して自身の「正義」観をロバマンに押し付けようとはしないんですね。
なかなか渋い登場の仕方をしますよね。月光仮面。子どものころテレビのヒーローを観ていると、悪人にイライラして「殺してしまえばいいじゃないか。どうせドラマなんだし」と思っていたんですけど、川内康範先生の考えはそうじゃなかったんですね。
――お昼にテレビのワイドショーを観るのが楽しみという、吉村の妻を演じられた熊谷真実さんの印象はいかがでしたか。
あのような大女優さんと、この齢になって夫婦役ができるとは、非常にラッキーだと思いましたね。熊谷さんはやっぱりお上手ですから、家庭のシーンでは画面が引き締まりました。
――照美さんがロバマンのヘルメットを着けたとき、どんな風に思いましたか。
(加藤)礼次朗さんがデザインしてくださったこのマスク、できたものを被ったんですけど、本来ならちゃんと収まるところが、僕の顔が長すぎてアゴが出ちゃってるという。でも、ワザとそうしたかったんじゃないかって勘ぐってるんですけどね。まあ、サイズが合わなかったってことでああなりました。今は顔の小さい俳優さんがたくさんいらっしゃいますけど、昭和のスターさんは顔が大きい人が多いですから。そういう意味では、昭和に回帰したヒーローってことで、いいと思います(笑)。
――本編中では『8マン』よろしく軽やかに疾走されていましたが、走るシーンが多くてたいへんそうでしたね。
僕は運動神経に自信がないですからね……。しかも動きにくい衣装を着ると、よけいに走りにくくて苦労しました。走ってるというより競歩みたいな感じですよね(笑)。
――劇中でラジオ番組をやっている「吉田照美」の役を、実際に照美さんのモノマネをされている芸人のHEY!たくちゃんが演じていらっしゃるのが面白いですね。
ちょっとこんがらがるみたいな面白さがありますね。HEY!たくちゃんが僕のマネをしてウケてるって聞いて嬉しかったです。でも声だけ聴いていると変な感じですよ。僕自身「この声は俺なのか、モノマネなのか」と混乱するときがあります(笑)。
――劇中、ロバマンを取材する番組レポーターとしてなべやかんさんが登場し、文化放送『やる気MANMAN!』の話題を含むかけあいを延々繰り広げるシーンがありますね。
あそこだけ、ストーリーからどんどん逸脱していくんですよね。あのくだりはすごく長いですけど、終盤に鶴光さんと僕が10分以上会話しているシーンも撮ったんですよ。でもそっちはカットされてしまって、鶴光さん「せっかく喋ったのに」って嘆いていましたね。
――ロバマンの強敵として現れた、鶴光師匠が扮するオールナイト星人についてはどんな印象を持たれましたか。
鶴光さんは大先輩ですし、僕もリスナーとしてよく聴いていました。鶴光さんの下ネタの「技」というのはちょっと越えられないですし、あの路線を極めた凄みがありますね。他の人が鶴光さんの真似をして下ネタトークをしたら、聴いていられない感じになると思います。
――基本はコミカルなギャグ、パロディ風味の強い『ロバマン』ですが、そんな中に社会風刺の精神があるというのが大きな魅力ですね。
現代社会や政治に対する風刺を入れ込み、笑いにするというのをうまくやっていますよね。マジメな、いわゆるふつうの映画では行けないところまで、河崎監督は行けたと思いますよ。大勢の人に『ロバマン』を楽しんでほしいですので、ご覧になった方は口コミでたくさんの方たちに宣伝してください!