ここまで仲間が強い絆で結ばれるのは、「One for all, All for one(1人はみんなのために、みんなは1人のために)」という言葉に象徴される、ラグビーというスポーツの特性もあるだろう。
安村氏は「ラグビーは、誰か1人がボールを前に運ぶために他のみんながサポートに回ったり、体を張ってタックルしたりするスポーツなので、誰が杉田くんみたいなケガをしてもおかしくなかったと思うんです。だからみんな『杉田は運が悪かった』とかではなく、当時1年生ながら最前線で、体を張ってスクラムを組んでくれていた彼にリスペクトの気持ちがあると思います。そういう気持ちの積み重ねで、今回の富士登山にもつながったんだと思いますね」と分析する。
谷氏も「自分は他のスポーツをやってたから思いますけど、ラグビーほど1人のスーパースターがいても勝てないスポーツはないですからね」と同調し、そのチームワークを「本当にうらやましいです」とも。
古くは『スクール・ウォーズ』から、つい最近の『ノーサイド・ゲーム』まで、ラグビーを題材にしたドラマが人気を集めるのも納得できる。『アンビリバボー』ではかつて、シベリア抑留で運命を翻ろうされた人たちのエピソード「クラウディア 最後の手紙」(04年2月12日放送)を、阿部寛と黒木瞳の共演で『遙かなる約束』というタイトルでドラマ化した実績があるが、今回の物語も本格的にドラマ化したら、また大きな反響を得るに違いない。
■つらかった気持ちを聞き出す重要性
VTRを見た最後のスタジオパートで、MCのバナナマン・設楽統は「自分も頑張ろうって思える」と感想を述べているが、谷氏も「すごい頑張ろうと思いましたし、友達を大切にしようと思いました」とした上で、「でも、何より思ったのが、この人たちのために良いVTRを作りたいということなんです。もちろん、いつもそのつもりでいるんですけど、仕事でゴタゴタがあったりして自信を失っていた時期でもあり、とにかく純粋で美しい友情の中の一部にいられて本当にいい思いをさせてもらったという感覚が強いので、今回は特別にその気持ちがありましたね」と語る。
そんな思いで臨んだスタジオ収録だったが、谷氏は「このすごい話を、自分がやったことによって台無しにしちゃいけないと思ってたので、本当にぼう然としてて何も覚えてないんですよ」という状況だったそう。本番では、MCの剛力彩芽をはじめ出演者がみな涙を流し、ゲストの武井壮が「神回ですね。呼んでいただいてありがとうございます」とコメントするほど大成功だったが、「収録が終わって8時間後くらいに、谷くんから『今、僕号泣してます』って連絡がありました(笑)」(安村氏)と、だいぶ時差があって緊張の糸が解けたようだ。
一方、当事者でもあり、取材者でもある安村氏は「今までは、杉田くんとみんなで遊んだり出かけたり、楽しいことで上書きすることで、失った時間を埋めたり、関係を築いていこうと思ってたんです。でも、今回は取材という名目で、みんなに『思い出したくないかもしれないけど、あのときのことを話してほしい』と聞いていく中で、やはり大切な人のつらかったことや苦しかったことは、時間をかけてでも聞くことが大事なんだなと思いました」という。
「あのケガが起こったとき、私の同期が杉田くんとドクターヘリに乗っていたんですけど、今回『杉田がしゃべってたこと、覚えてる?』って聞いたら、『当時俺も21歳で、後輩とドクターヘリに乗るなんて…山々を越えていったことしか本当に覚えてないんだよね』と言われて…。これまでその気持ちを聞き出して共有してあげられなかったことに後悔したんです。つらかったことにフタをして触れないであげることも優しさだと思うんですけど、場合によっては勇気を持って一緒に掘り起こして、『気づいてあげられなくてごめんね。つらかったね』と寄り添うことも必要なんじゃないかなと、今回すごく思いましたね」(安村氏)。
安村氏は7月1日付で、情報番組の制作スタッフから人事部の採用チームへ異動になっていたが、今回の取材を業務として優先させてもらえたそう。「最後にこの作品を作ることができて、本当に良かったと思います」と充実の表情を見せていた。
杉田さんに、今回の密着取材のVTRを誰に一番見てほしいかを尋ねると、「予定が合わないなどの理由で富士山に一緒に登れなかった仲間に見てほしいです。もちろん気持ちでは一緒に登っていましたが、富士山に登った時に一緒に見るはずだった光景をテレビを通して少しでも感じてもらえたらと思っています」と話している。今夜の放送は、同期の仲間たちと一緒に見る予定だそうで、その現場は大いに盛り上がることだろう。