新iPhoneは動画で攻める

最後に、今回の発表の本命とも言える新iPhoneが発表された。X、XR/XSときて型番がどうなるかが注目されたが、あまり捻らずに「iPhone 11」というネーミングになった。

  • Xの次は、「XI」ではなく「11」。結局iPhone 9は欠番になったままのようだ

iPhone 11は6.1インチのリキッドRetinaディスプレイを搭載するモデルで、iPhone XRの後継モデルという位置付けだ(実際、サイズや重さもXRとまったく同じ)。XRからの変更点としては、SoCがApple A12 BionicからA13 Bionicへ変わり、防水性能がIP67からIP68へ改善。無線LANがWi-Fi 5(IEEE802.11ac)からWi-Fi 6(IEEE802.11ax)になっている。サウンド機能も向上し、Dolby Atmosに対応している。

A13 Bionicは機械学習用のコアである第3世代のNeural Engineを搭載し、処理性能は演算処理とCPUでA12を約2割程度上回る。そして機械学習においては、1秒あたり1兆回の処理が可能だという。ただ、筆者の勘違いでなければ、昨年A12 Bionicの説明で「秒間5兆回の処理」と言っていたので、それが正しければA13は性能が5分の1まで落ちてしまったことになる。この辺りは後ほど改めて確認したい。

  • 発表としては次の「Pro」のところで紹介されたのだが、今回のスライドより、A13 BionicのNeural Engineの処理性能について、1兆回/秒の説明

  • こちらがXS発表時のスライド。A12 Bionicは5兆回/秒と言っているが……

最大の変更点が、カメラがXRの1カメラから、11では2カメラ構成になったことだ。ただしXやXSのような標準+2倍ズームではなく、標準+超ワイドの構成になっている。また、Face ID用のTrueDepthカメラも7Mピクセルから12Mピクセルにアップデートし、スロー撮影や4K動画撮影も可能になった。特にスロー撮影については、Appleは「スローフィー」(スローのセルフィー)という造語まで作って売り出したいようだ。近年、自撮りの世界もTikTokなどの普及で動画中心になりつつあるので、これは正しい方向での進化と言えるだろう。

  • 2つのレンズの画角の違いがはっきりわかる。写真愛好家的にはスーパーワイドの採用は歓迎できる人も多そうだ

一方、Android陣営ではすでに対応を表明するケースが増えている5Gについては非対応となった。もっとも5Gが本格的に整備されるのは来年以降なので、あえて一番乗りを目指す必要もないのだろう。競合と比べても桁違いの台数を生産する必要があるiPhoneだけに、こうした割り切りはむしろ正解だと言えるかもしれない。

iPhone 11は9月13日に予約が開始され、発売は9月20日。価格は、64GBモデルが7万4,800円から。ボディカラーはホワイト、ブラック、グリーン、イエロー、パープル、(PRODUCT)REDから選択できる。グリーン、イエロー、パープルではこれまでになくパステル調が採用されており、従来のビビッドな色を敬遠していた層にも訴求するかが注目される。

  • パステル調のカラーを採用したiPhone 11。スペシャルイベントのイラストに描かれていた5色のリンゴはこの色を表していたわけだ

また、XSシリーズの後継となるモデルとして登場したのが「iPhone 11 Pro」および「iPhone 11 Pro Max」だ。11 Proが5.8インチ、Maxが6.5インチのOLED「スーパーレティーナXDRディスプレイ」を搭載している。このあたりはXSシリーズと同じだが、本体はXSシリーズよりもわずかに大きく、重くなっている。

基本的な仕様変更はXR→11と共通だが、XSシリーズとの比較で最も大きな違いが、カメラが2カメラ構成から3カメラ構成になったこと。こちらはもともと標準+2倍ズーム構成だったものに、11と同じ超広角が加わっている。TrudeDepthカメラについては11と同等だ。

  • かなり異彩を放つ3カメラ構成。この並び方、筆者はどうしても往年のロボットアニメの名作「ボトムズ」のスコープドッグを思い出してしまう

発表会では、プロ仕様の動画撮影アプリ「FiLMiC Pro」を使って、同時にTrueDepthカメラを含む4台のカメラが捉えた映像をリアルタイムで表示し、そのうちの2台を同時撮影(片方はワイプ表示)する様がデモンストレーションされた。また、リアカメラは3台の中心軸が同じになるよう調整されているらしく、カメラの切り替えでスムーズにズームイン/アウトされていた。静止画の画質はもちろん素晴らしいのだが、今後はプロも対象として、動画撮影でのアドバンテージをアピールしたいようだ。

  • 同時に複数の画角での撮影を確認できるのはかなり面白い。カメラ間で中心軸を合わせてあるのはAppleらしい心配りだろう

スマートフォン市場においてマルチカメラは最新のトレンドでもあり、すでにAndroid陣営では4カメラ構成のモデルや、5倍、10倍といった高倍率ズーム搭載モデルも登場している。こうした競合に直接機能で対抗するのではなく、違った価値観を持ち出してきたのは、なかなか強かな戦略と言えるだろう。実際にプロが使用するには、被写界深度などに難があるように思えるが、背景ボケはニューラルエンジンがリアルタイムに処理できるのであれば、案外悪くないのかもしれない。

価格は、iPhone 11 Proが10万6,800円から、11 Pro Maxが11万9,800円から。XSが11万2,800円からだったことを考えると、わずかだが安くなっている。ボディカラーはスペースグレイ、シルバー、ゴールドに加えて新色の「ミッドナイトグリーン」が追加された。

  • 新色「ミッドナイトグリーン」はだいぶ渋い色合い。ゴールドも処理が少し変わっているようだ

なお、既存機種ではiPhone 8/8sとXRが引き続き併売される。iPhone 8のSIMフリーモデルが5万2,800円から、XRが6万4,800円からとなるが、iPhone 11との価格差が小さいため、新製品であるiPhone 11に人気が集まることが予想される。