――劇中のAI=ヒューマギアを「暴走する危険な存在」として嫌悪するのは、主人公の飛電或人ではなく特務機関「A.I.M.S.」不破諫の役回りなんですね。AIを否定する組織がいる一方で、或人がAIを肯定的に捉え、信じるという設定になった経緯を教えてください。
AIのことを勉強するうちに、そうならざるを得ないという思いになっていきました。これからの世界を生きる子どもたちに向けて作る作品だからこそ、AIを否定しても仕方がないかなと(笑)。『エグゼイド』のときも、医療関係のことについていろいろと勉強して周りを固めてから物語を作っていきましたので、今回も悠也さんと一緒にAIについてしっかりと勉強しました。現在われわれの生活に取り入れられているAI家電などをとっかかりにして、そこから発想を広げていく……。かなり無茶な作り方をしているのですが、こういう無茶を一緒にできるのは悠也さんしかいない、と思っています。
――大森さんと悠也さんによって、すでにストーリーの流れはある程度固まっているのでしょうか?
まだ序盤の段階ではありますが、だいたいの道筋はついています。具体的な今後のストーリーは進んでみないと分かりませんが、最終的には人間とAIがいかにして「共存」していくか、が描けたらいいなと考えています。大人には「こういう世界があるのか」と思ってもらい、子どもには「AIとはこういう風に関わっていけばいいのか」と、考えるきっかけになればと思います。
――『エグゼイド』の「医療監修(林昇甫氏)」、『仮面ライダービルド』の「物理学アドバイザー(白石直人氏)」のように、今回もAIについての専門家の方が作品のアドバイザーとして就かれているのですか。
そうですね。『ゼロワン』でもAIを専門にされている教授陣とやりとりをさせていただいています。現在は比較的「いま」の生活に密着したAI技術についてのお話が主ですが、これからは「未来」を見据えて、今後どのようにAIが人間社会に関わっていくのか、まで発展していくかもしれません。でも、AIのことを教えていただこうとしたら、反対に「では人間とは何ですか?」と問われてしまいました。「そもそも、われわれは人間のことをまだ何も知らない」と言われて……(笑)。専門家のみなさんと話していたら、AIなんですけど結局「人間」を見つめることになっていき、そのあたりも「SF」のど真ん中といった感じですね。
――SFというジャンルの中でも「人工知能はどれだけ人間に近づけるか」といったテーマの作品は、機械との関わりを通じて「人間」の本質的な感情を描く物語が多いですね。
専門家のみなさんの中には「人間自身も"機械"のようなものではないか」と言われる方もいるんです。人間もある種のメカニズムを備えた機械であって、それに気づいていないだけかも……という話を聞いていると、もうこちらとしてはワケがわからなくなる(笑)。ヤバイな、すごいジャンルに手を出してしまった……と思いもしましたが、そこは「仮面ライダー」をやるわけですから、しっかりと取り組まなければいけない。初めは軽く「お仕事もの」だと思って入っていくうちに、コアな部分へとハマリ込むというのは「仮面ライダー」の"宿命"ですが、それが心地よくもあります(笑)。
――『エグゼイド』や『ビルド』ではストーリーに連続性を持たせ、キャラクターの立ち位置が敵から味方へとガラリと変わったりして、1週たりとも見逃せないスリリングな展開が魅力でしたが、『ゼロワン』でもそういった部分は踏襲されていますか?
今回は1エピソードごとに「お仕事」という見どころを立てているので、今までと違って1話ずつ観ても楽しめるようになっていると思います。
――仮面ライダーゼロワンとは別に、仮面ライダーバルカン、仮面ライダーバルキリーという2人の仮面ライダーが登場するのも今から話題を集めていますが、彼らが属する対人工知能特務機関「A.I.M.S.」というのは、「AIを信じ、共存する」姿勢の或人とは真逆の立場でありながら、完全に対立する"敵"というわけではなさそうですね。A.I.M.S.の成り立ちについて教えてください。
AIのロボットが存在する世界であれば、ロボットの犯罪を取り締まる警察のような存在が必要だろうと思っていて、主人公と違う立ち位置のキャラクターは当初から考えていました。
――バルキリーに変身するのが女性(刃唯阿)というのは、どのような狙いからですか。
あまり「女性の仮面ライダー」であることは強く意識していないんです。「お仕事もの」をやるのなら当然女性もいるだろう、という発想からであって、「女性仮面ライダーを活躍させるぞ!」と意気込んでいるつもりはありません。当然のように、A.I.M.S.で活動する隊員の中に女性もいるだろう、いなきゃおかしいよね、くらいの考えで設定しています。
――ヒーローを輝かせるためには「悪」がより魅力的でないといけませんが、今回のゼロワンの"敵"である「滅亡迅雷.net」については、どのように設定を考えられたのでしょう。
悪の目的は「人類滅亡」。分かりやすいでしょう(笑)。入口はとにかく分かりやすくしようとして、あのような悪を設定してみました。「迅(じん)」と「滅(ほろび)」という2人の青年が出てきますが、彼らはまだこの場では明かせないいろいろな"謎"を秘めていますので、これからの放送の中でそれらが明かされていくのをお楽しみください。
――『ゼロワン』は令和最初の仮面ライダーと銘打たれていますが、これまでの「平成仮面ライダー」とはどのような関係にあるのでしょうか?
最後の平成仮面ライダー『仮面ライダージオウ』が終わって1週間後に始まる作品ですし、かつての「昭和から平成へ」と数年間のブランクがあった時代とは感覚が違います。まったくの地続きで始まるわけですから『ゼロワン』は「いままでの平成仮面ライダーをぜんぶ忘れます」ということではないんです。スタッフの何人かは新しい方に交代していたりしますが、それも今回の企画のことを考えて、こういったメンバーに決まったというだけで、「新旧世代交代」みたいなことは考えていません。ただ、新しい作品をやるには何かしら新しい「エネルギー」が必要だと思っていますので、昨年『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(2018年)のメイン監督だった杉原輝昭さんにパイロット(第1、2話)を担当してもらいました。